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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ<2>




どこまでもどこまでも続く、雲の上の地平線。 高く澄み渡った青い空。
空は明るいのに、地上を照らす太陽は見あたらない。

小さな翁の言ったとおり、ここはあの香炉の中なのだろう。

人の顔をした牛は、この世のものとも思えぬほど美しい妖を乗せて、
雲の上をゆっくりと歩いてゆく。

(・・・・・・この先に、何かあるのか?)

殺生丸がその金色の目を細めて空を見上げていたとき、肩の上に乗った小さな翁が
声をかけた。

「着きましたぞ、殺生丸さま。ここが神成りの道にございます」

 





 

神成りとむすめ<2>


拍手[50回]

 

 



「・・・・神成りの道だと?」

殺生丸が怪訝そうな顔をして肩の上の翁を見ると、
翁は手に持った扇で件(くだん)の足下を指し示した。

立ち止まった件(くだん)の数歩先は、足下にあった白い雲が途切れ、
そこにはまるで小さな池のようにぽっかりと穴が開いている。
穴の中には、七色の光と漆黒の闇を放つ不思議な液体が満ち、うねうねと波だっていた。
池は明るい空をうつして光に当たれば七色の美しい光を放ち、波の影に入っては
吸い込まれそうな漆黒の闇の色を放っている。

・・・・どう見ても、満ちているのはこの世にある液体ではない。


「・・・ここに満ちているのは、神が生まれ出ずる前の、混沌の世界です」

「・・・神が生まれる前の世界だと・・・?」

「はい。ここにあるのは、なんの秩序もない世界。
 時間も、世界の上下も、命すら、ありませぬ。
 されど、ここにはすべてがあるのです。
 ・・・すべては、ここから生まれていったのです」

殺生丸は、目を細めて七色と闇の光を放つ池を眺めた。
この世が生まれた時の神話とやらは、殺生丸が幼かった大昔に、
乳母であった霧姫から教えを受けた。

・・・曰く、かつて神々の住むという高天原より下の世界は、水に浮いた油のごとく、
ゆらゆらと漂っている混沌の世界であった。
それ故、目に見えぬ尊い神々は高天原から神を使わすことにした。
高天原の尊い神よりその命を受けたのがイザナギとイザナミの二柱の男女神である。
この二柱の神は、高天原の尊い神から教えを受け、雲の切れ目から賜った矛を下界へ
突き刺し、ぐるぐるとかき混ぜてみた。

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すると、漂っていた形のない世界はやがてどろどろと重く固まってきたので、
二柱の神が矛を引き上げてみると、その先からぽたりぽたりと泥が落ち、
それは海の中で固まって小さな島となった。 
その島をオノオロ島と言い、そこへ降り立ったイザナギとイザナミは宮を建て夫婦となり、
秋津島や、この世を支える様々な神々を生み出したのだ、と。


殺生丸が長く、思い出しもしなかった国生みの神話。
幼い頃、殺生丸も乳母の霧姫から「闘牙王の子として当然の教養だ」と言われて
仕方なく書を紐解いた。
けれど、覇道の力をもって偉大な父の背を越えることしか考えていなかった殺生丸が、
古くさい神代の物語などに興味を持てるはずもなかった。
この度の神議りの一件がなければ、恐らく国生み神話など思い出すことすらなかっただろう。

そういえば、奈落を倒すための旅をしていた頃、
邪見が賢しらに幼いりんにこの手の昔話をしていた気がする。
りんは嬉しそうに聞いていたが・・・。

(・・・その国生みの神々が生まれた、更に前の世界がここにあるというのか・・・?)

神話など所詮神話だと殺生丸はそう思っていたが、出雲の神議りへ行く、ということは
その国生みの神々と殺生丸は実際にまみえることとなるのだろう。


「・・・・で、私にどうしろと言うのだ」

殺生丸の声に、翁は扇をぱっと開いてからからと笑った。

「いや、さすがは殺生丸さま。さすがはあのお二方のご子息であらせられる!
 この池を見ても怖じ気づかれませんだか?」

殺生丸はその金色の目を細める。

「・・・どういうことだ」

「この池の中に満ちる世界は、命すら存在せぬ原始の世界。神の御印への道は、この先です」

殺生丸は、池を見て眉間を寄せる。
確かに、鋭敏なはずの殺生丸の嗅覚をもってしても、
この池からは何の臭いも気配も読みとれない。
そんなことは、通常、ありえないことだ。

嫌な予感がした。
・・・冥界へ踏み込んだときのことを思い出す。

「・・・・母上の示す道は、相変わらず悪趣味だな」

不機嫌そうな殺生丸の視線を受けて、翁はからからと笑い、件(くだん)へ声を掛けた。

「件(くだん)よ、頼む」

すると、ゆっくりと歩むだけだった件(くだん)が、顔を後ろに向け、殺生丸を仰いだ。

「・・・・殺生丸さま」

件(くだん)の髪の先についた鈴が、ちりん、と響く。
殺生丸は金色の目を下に向けた。

「どうか、愛しいものの元へ、戻りたい、戻らねばならない、と強くお思いください。
 神成りの道は、この池の中。殺生丸さまはこの池の中へ入らねばなりません。
 原始の世界へと同化すると同時に、あなたさまは一旦この世から消えてしまわれるのです。
 これから殺生丸さまが体感されるのは、この世界が持つ長い古代の記憶です。
 この道の果てに神の印を受け継がれたとしても、この世へ戻りたいと強く思われなければ
 殺生丸さまは身体を取り戻せず、実体を持たぬ神へとなってしまわれます。
 ・・・確かにあなたは、お強い。
 闘牙王さまと同様、闘神としてはすでに十分なお力をお持ちです。
 されど、あの方とは違い、あなたには執着するものが本当に僅かしかない。
 ・・・それも、儚いものばかりだ」

殺生丸は静かな声でそう言う件(くだん)を見下ろした。

「・・・それは先見か?」

「・・・私は、そのためにここにおります」

殺生丸はしばらく、件(くだん)の深い色をした目を見ていたが、
やがて目線を前へ向けると、静かに口を開いた。

「・・・・無用な先見だな。私には、必ず戻ると約束した者がいる」

静かにそう言った殺生丸の言葉に、件(くだん)は、前を向いて微笑んだ。

この美しい妖は、その見た目と反して、心の中はとても武骨だ。
・・・その妖がみた夢は、その武骨さに似合わぬ極上の甘い夢。
まっすぐに伝わってきたのは、一人の女人を想う一筋の強い想い・・・。
夢を喰らい、あれほどの深い幸福を味わったのは、本当に久しぶりだった。

永遠に近い命を持つ大妖が、一つの儚い命を哀しいまでに愛している。
・・・・されど、それは後に訪れる癒しようのない孤独と引き替えだ。
この大妖は、その絶望を知りながらたった一つの命を愛している。

やがて訪れる絶望を承知の上での執着ならば、
確かに自分の先見など必要なかったのかもしれない。
恐らく、この先この美しい妖が見るものは、絶望と、そして一筋の光なのであろうから。

・・・どうやら私は、もうあの夢の中で先見をしてしまったらしい。

「・・・・では、参りましょう、殺生丸さま」

件(くだん)はそう言い、池の縁から一足、また一足と七色の光の液体の中へ足を進めた。

殺生丸は、ちゃぷんと浸かる足先から、感覚が消えていくことに気づく。
まるで、水に溶けていくような感覚だ。
手足の感覚が無くなり、重かった身体もその重ささえ感じなくなっていく。

(・・・・・この先に、何があるというのだ)

件(くだん)の姿は、もうすでに池に沈み、見ることもできない。

(・・・何があろうと、私の戻るところは一つしかない・・・)

胸の位置まで七色と闇の世界が迫ってきたとき、翁が殺生丸へ声を掛けた。

「・・・では、殺生丸さま、後ほど」

「・・・」

翁がちゃぷん、と池に飲まれると、殺生丸の鼻先にも七色の光が迫ってきた。
すでに身体はほとんど池に沈み、その感覚を無くしている。


(・・・・・・りん・・・)


殺生丸は静かに目を閉じて、ゆっくりと池の中に沈んだ。

 

 

 

 

 

 


※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 


一点の光もない、漆黒の闇の世界。

 

 

 

 

・・・ここはどこだ・・・


そう思ったことで、殺生丸は己がここに存在していることに気が付いた。

だが、体の感覚はすでにない。
いや、そうではない・・・体が無いのだ。


殺生丸がそう気がついたとき、

 


――――――殺生丸さま

 

あの、翁の声がした。
声がした、というよりも、意識の中に直接話しかけられている。


己の意識の周囲が、ほのかに光り、暖かく感じた。
漆黒の闇に、淡い光の玉が浮かんでいる。
私はその光の玉の中にいるのだ、と殺生丸は気づく。

 


――――――この光は、天生牙にございますな 
――――――殺生丸さまを、お守りしているのです


翁の声が、そう言う。

 

――――――天生牙が・・・


――――――さよう・・・あの剣は、天界に通じる、天下に二つと無い銘刀
――――――そして、あなたを使い手として選んだ
――――――あなたは、ずいぶんと慕われておいでだ

 

 

―――――― ・・・・・。

 

 

――――――さあ、殺生丸さま、ご覧ください
――――――神々の歴史がはじまりますぞ・・・!

 

 


翁の声が聞こえた直後、漆黒の闇の空間がぐにゃりと曲がった。

何の力が働いているのか全く分からないまま、
ものすごく圧縮された空間が三つ、目の前にできていく。 

殺生丸にすら、思わず恐怖を抱かせるほどの空間の捻れ。
恐らく、体があれば完全に、あの圧縮の中に吸い込まれていたに違いない。
それほどに、世界が収縮してゆく。


やがて、三つの収縮した漆黒の闇の中に姿を持たぬ神が生まれたのが殺生丸には分かった。
とてつもない存在感は感じるのに、姿は見えない。
神が生まれた途端、空間が質を変え、力を持ったのが分かる。

 

頭の中に直接流れ込んでくる、声質の違う、三つの声。

 

 

 

――――――我は、天を司る神

――――――我は、生む力を司る神

――――――我は、神を生む神


――――――我ら三柱は独神(ひとりがみ)にして、姿を持たぬ神・・・

 

 

 


その神々がそう言った途端、今度は下の方から何かキラキラと光るものが生えてきている。
それは、菌糸のような姿をして、光を放ちながらものすごい勢いで成長し、
世界を覆い、上へ上へと伸びてくる。
よく見ると、膨大な量の金色の光の粒で、それは形作られている。

 

また、殺生丸の意識の中に直接声が響く。

 

 

 


――――――我は、命を生む神


――――――我は、命の深源そのもの
――――――我も独神(ひとりがみ)にして、姿を持たぬ神・・・

 

 

 

 

・・・・もしやこれは・・・この世に命が生まれた瞬間なのか・・・?

 

殺生丸がそう思ったとき、激しい音がして、急に空間が、上下にばりばりと割れた。
重力が生じ、世界が急激に天と地に分かれていく。
世界が天と地に分かれたことで、青い空が生まれた。


また意識の中に、直接響く声がした。

 

 

 

 


――――――我は、天を支える神

――――――我が居座(いま)す限り、天は天であり続ける
――――――我も独神(ひとりがみ)にして、姿は持たぬ神・・・

 

 

 

 


次々に生まれた目に見えぬ五柱の神々がその姿を現さぬまま、世界に溶け込んでいくと、
やがて、天と地の間にもくもくと雲が生まれ、雨が生まれた。
雨は大気を震わせ、風を生んだ。

この世界に何かが生まれる度に、殺生丸の目の前で同時に神や精霊が生まれていく。
雲や雨といった形のあるものの神は、皆、個性豊かなそれぞれの姿形を持った神々だ。
司る力を体現しているのだろう。
それらは、殺生丸が幼いころ乳母に学んだ、神々の世界そのものだった。

雨は川となり、海へと成長していく。
雨の降り注いだ大地には青い草が生え始め、みるみる地表を覆っていく。
その間にも、精霊や神々がそこかしこに生まれていく。

風になびく草の中に、ものすごい勢いで木がにょきにょきと生え始め、
あっと言う間に深い森を形成し、それは天にそびえる山へと変化していく。 
やがて、その中に動物や人間が生まれはじめた。

天地のあいだに何かが起こる度に、そこそこに、次々に神々や精霊が生まれていく。
それぞれの神がそれぞれの力を持ち、ここにいるすべての神々の力が、
この世を支えているのが分かる。

・・・その膨大な森羅万象と神々や精霊の持つ名前・・・言葉にできぬ名前が、
殺生丸の意識の中に怒濤のように流れ込んでくる。


・・・されど、あまりに膨大な森羅万象の歴史と神生みの軌跡、すべての神々の名前は、
そもそも一つの魂に収まりきれる情報量ではない。 
生身の生き物には、それぞれの魂が生まれ持った器がある。
長く生きる妖が、人間よりも動かぬ心を持っているのは、そのせいだ。

魂の器に受け入れられる情報量には、限度がある。
だが、今、この世界に意識のみで存在している殺生丸の魂には、
それらが際限なく、津波のように流れ込んでしまっていた。

もともと、海のような意識の中で、己を認識できる割合とは氷山の一角のようなものなのだ。
水面が上がれば、そんなものは簡単に沈んでしまう。

世界を支える神々の莫大な情報が津波のように、殺生丸の意識を飲み込もうとしていた。

殺生丸の意識はこの世界と徐々に融合しはじめていた。

 


・・・己と、世界との境界線が・・・消えていく・・・

 

僅かに残った意識で、殺生丸はそう思った。

 

 

 

 

<3>

 

 

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