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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ<6>











 

神成りとむすめ<6>


拍手[43回]









 



「え、ほんと?」

りんは目を丸くした。
怪我を負い、この里の結界を越えてくる妖は、りんにとっては初めてだ。

「 カラス天狗の呼びかけに目を覚ました里人が、医王庵へ運び込んで、詠月さまが徹夜で
   その妖の手当をされたそうです。
  ですがその妖、ずっとうわごとを繰り返すばかりで、まだ意識を取り戻さないのだそうですよ」

心配そうにそう言った小梅に、邪見が顔色を変えた。

「 お、おい、小梅!!そそそ、その怪我をした妖とはどんな妖じゃ?!
  危ない奴であれば、今日はりんを医王庵に行かせるわけにはいかんっ!! 」

トカゲのしっぽを握りしめてそう言う邪見を見て、りんは苦笑した。
ここに来てからというもの、邪見の過保護がひどい。

「 大丈夫だよ、邪見さま。
  この里に害をもたらす妖怪は結界を越えられないって、詠月さまも柚月さまも言ってたじゃない」

りんの言葉に、小梅と小竹がうなずいた。

「そうですよー、邪見さま」
「この里の生き字引である詠月さまと柚月さまがそう仰っているのですから、間違いはありません。
 ご心配なさらなくても大丈夫です」

小梅と小竹が声を揃えてキッパリと言い、邪見はぐっと言葉を詰まらせた。
下仕えの半妖の小娘に言い負かされるのは、生粋の妖怪としてはさすがに悔しいらしい。

「なっ、何を言う、ばかものっ!
  りんに何かあったら、ワシが殺生丸さまからお仕置きを受けるんじゃぞーっ!!
 あの三つ目の兄妹にしても、ご母堂さまの加護の元でこそ、今まで里長(サトオサ)が
  務まったのではないか!
 そう考えれば、結界の主である殺生丸さまが出雲へ行かれておらぬ今、どれだけ用心しても
  しすぎることなど無いわいっ!!」

邪見はぷりぷりと怒りながら、トカゲのしっぽを口の中に放り込んだ。
邪見の怒った顔を見て、りんは困ったように笑う。

兎にも角にも邪見には、りんを守らねばならないという主の絶対の命がある。
りんが幼かった童の頃とは違う。りんはもう、殺生丸の奥方となったのだ。
殺生丸がどれだけりんのことを大切に想っているかは、常に側にいた邪見が一番熟知している。
りんに何かあったらと考えるだけでも、恐ろしくて冷や汗がでる。
りん可愛さが半分、己可愛さが半分ではあるが、邪見の意気込みはもっともである。

りんとて、邪見の気持ちが分からぬ訳ではない。
意気込む邪見を試すかのように、この里の中には一目見ただけでも逃げ出したくなるような
恐ろしい見た目の妖が、そこらを歩いている。
けれど、人間と共存しているだけあって、この里の妖は基本的に心根の優しいものがほとんどだ。
だから慣れてしまえば、そのおどろおどろしい外見も単なる彼らの個性の一つで、けして人に
害を成す邪悪な妖ではないことが分かる。
だが、邪見は彼らの姿に、端から見ても分かるくらいにビビっていたりする。

りんが聞いたところによると、邪見は同族以外の妖に囲まれて暮らすのは実は初めてなのだという。
平気な振りをしているが、邪見は邪見で、緊張の毎日を送っているのだろう。
それでも、邪見はこの里でりんを殺生丸の「奥方」として守ろうと必死なのだ。

邪見のその努力は、現在のところ単なる「過保護」という形にしか現れてはいないのだが、
そんな邪見の必死の努力が分かるだけに、りんは苦笑するしかない。

それに、小梅と小竹をはじめ、この里に暮らす人や妖は皆、里長(サトオサ)である詠月と柚月に、
絶対の信頼を寄せている。

小梅と小竹は、この里で生まれた半妖ではない。
幼い頃、人里に住んでいた小梅と小竹は母親もろとも殺されそうになったのだと言う。
――― 村に飢饉が続くのは、おまえたち半妖がいるからだ―――と。
母親とともに命からがら人里から逃げ出した双子がたどり着いたのが、この里だったのだそうだ。
瀕死でこの里へとたどり着いた後・・・母親は襲われた時の傷が元で命を落としたのだそうだ。

りんはその話を聞いたとき、夜盗に襲われた自分の家族のことを思いだして、年甲斐もなく、
ぼろぼろと泣いてしまった。
母親と死に別れたこの半妖の双子を今まで育ててきたのは、里長である詠月と柚月なのだそうで、
彼女たちが彼らに絶対の信頼を寄せるのは、もっともとも言える。

詠月と柚月の兄妹は、この里を作った妖・・・医王という妖の子供なのだそうだ。
額にある三つ目で病魔が見えるという彼らは、その仙人のような医術の腕を駆使して
里人の命を守り、様々な薬を作り出している。
この里長の兄妹、見た目は30歳そこらだが、もう200年は生きているのだと聞いて
りんは驚いてしまった。

りんは殺生丸を見送った次の日の朝、里の見学がてら、まずは医王庵の詠月と柚月を
邪見と共に訪ねた。

前日の夜、旅立つ殺生丸の別れ際の一言に、りんは出迎えてくれた里人の前で大泣きしてしまった。
心配を掛けてしまったお詫びもしたかったし、改めて挨拶もしておきたかった。
・・・思い出すと、顔から火が出そうな程に恥ずかしかったけれど。

朝一番で出かけたにも関わらず、医王庵には怪我や病で通いつけている妖たちが多く集っていた。

人里にいた頃、りんは楓から、都の大きな寺社には「診療所」という病人が通う施設があるのだと
教わっていたが、まさにこの医王庵はそういう施設と呼ぶにふさわしかった。

あまりの患者の多さに驚き、とりあえずは診療を邪魔をしないようにと、りんは邪見と遠慮がちに
庭から医王庵をのぞき込むしかなかったが、その時、ちらりと見えた詠月と柚月の治療は、
今まで人里で目にしてきた医師の施術とは比べものにならないくらいに手早く正確で、
りんは思わず目を見張ってしまった。
それに、医王庵の壁にぎっしりと並んだ薬箪笥の数はとにかく圧巻という他なく、この里に伝わる
薬の多さを物語っていた。

この里へ連れて来られる時、邪見が言っていた、
「薬作りに関しては、この里の右に出るものはおらん」
とは、こういうことだったのかと、りんは感動してしまった。

りんと邪見が庭から医王庵の様子を伺っているのに気が付いた妹の柚月は施術の手を止め、
勝手口から庭へ出てきて、にっこりと笑った。

「 まあ、りんさま!お元気そうな顔色で、安心いたしましたわ。
  もう、お気持ちは落ち着かれましたか?」

りんは、昨夜の取り乱しようを思い出すと、耳まで真っ赤になってしまった。

「 あ、あの、昨夜は本当にすみませんでした・・・!
  せっかく里の方が迎えて下さったのに、私あんなに泣いてしまって・・・」

りんは赤い顔でぺこりと頭を下げると、隣で邪見が「まったくじゃ」とこぼし、
柚月はくすくすと笑った。

「 ちょうど治療も一段落したところですし、どうぞお上がりくださいませ、りんさま、邪見さま。
  兄さまと一緒に、柿をいただきましょう。
  とても美味しいものを、森に住む妖が差し入れてくれたのです」

真っ赤になったりんが顔を上げると、優しそうな柚月の顔がにこにこと笑っていた。

木霊の妖が持ってきたという柿はとても甘かった。
りんと邪見は柿を頂きながら、今まで人里でりんが産婆と薬師の見習いをしていたことを
この兄妹に話した。
りんがこれから、この里で薬師として更に多くのことを学びたいと思っていることも。

そもそもりんの願いを叶える為に、殺生丸はこの里をご母堂から受け継いだようなものだ。
結界の主である大妖怪の奥方が、妖の薬作りにひとかたならぬ興味を持っていることを、
詠月も柚月も心から喜んでくれた。


それ以来、一日の多くを、りんはこの医王庵で過ごしている。
今までは人間の薬しか作ったことはなかったが、詠月と柚月に教わりながら、
今は妖の体を学び、妖の病気を学び、妖の薬を作っている。

薬を作るには薬草を知らねばならず、りんは積極的に薬草畑にも足を運んだ。
薬草を手入れする妖たちは、人間よりも遥かに植物に関する感覚が優れているらしく、
手入れの行き届いた薬草畑へ足を運ぶ度、りんはその管理の素晴らしさに感心させられた。


この医王の里は、ちょうどすり鉢状の小さな盆地に存在していて、
そのすり鉢の底・・・里の中心に医王庵はある。
医王庵のすぐ近くには温泉が湧いていて、効能の多いこの湯を里人は皆「岩井の湯」と呼んでいた。

りんの住まう「お館さまの屋敷」は村の中でも一番高いところに建っているために、里の中を
端から端まで一望できる。

小梅と小竹の説明によれば、最初にここに存在していたのは、山深い森の奥にある、たった一つの
小さな庵だけだったのだそうだ。
その庵に住んでいた医王という女妖の医師が施す治療で、多くの妖怪や人間が救われた。
・・・・だが、時は乱世。
命は助けられても、帰る場所が無いものも多い。
それゆえに、帰るところのない妖や人間たちは、医王が許すままに、医王庵の周囲に住み着いて
しまったのだと言う。
住み着いた人や妖が子供を産み、住人はどんどん増えた。
山深いこの里で食料を得るために、医王庵の周囲はどんどん開墾され、あっというまに
畑や田圃が出来て、まるで人里のようなこの妖の里ができたのだそうだ。

盆地の中で緩やかな傾斜を描く棚田と薬草畑は、里の者を養うには十分な程に広い。
育てている野菜や薬草の種類も、今まで住んでいた人里より桁違いに多く、りんを驚かせた。

元々、野に住む妖は、植物の育成に関しては人間よりも更に優れた知識を持ってるのだという。
植物に害を与える虫や病気にも詳しく、気象の変化にも人間より敏感な感覚を持っている。
彼らはその鋭敏な感覚でその年ごとの気候を予測し、確実に収穫できる植物を計画的に
栽培しているのだそうだ。
それゆえに安定した収穫が保たれ、結果的にこの里は飢饉と無縁でいるのだという。
りんはこの里にきた当初、畑仕事や稲作に人間より詳しい妖がいることに、心底驚いてしまった。

それと共に、思い出さずにはいられないこともあった。
・・・・地念児や犬夜叉のことである。

この里に住む妖たちは人間と一緒になって、畑や田圃を、幼い半妖の子供たちの為に耕している。
りんはその光景を見たときに、思わず目が潤んでしまった。
地念児とその母親の姿が思い出されてならなかった。
辛い子供時代をおくったという、犬夜叉のことも。

楓と共に、りんに薬草の知識を授けてくれた地念児は、半妖として生まれてしまった為に、
ずいぶんと辛い思いをしたのだと聞いている。
確かに、りんが一目見て分かるほどに、彼の体は古傷だらけだった。
きっと、叩かれたり殴られたり、石をぶつけられたりしたのだろう。
りんが知る限り、地念児はとても心優しい、穏やかな半妖だ。
けれど、そんな彼でも半妖というだけで、人間の世界では疎まれて当たり前だった。
・・・もし、彼がこの里に生まれていたら、体中にあんなに傷を作ることはなかったに違いない。

犬夜叉とて、母君が亡くなられたのちは、人間にも受け入れられず、妖怪からも命を狙われ、
いつも死と隣り合わせの生活をおくってきたのだとりんは聞いていた。
半妖とは、人にも妖怪にもなれない中途半端な存在なのだ、と犬夜叉は自嘲気味に言っていた。
楓からも、聞いたことがある。
かごめと出会う前までは、犬夜叉は手の着けようがない乱暴者だったのだよ、と。
それは、彼なりに厳しい世界を生き抜いてきたからに他ならなかった。
・・・きっと、辛い思いをたくさんしてきたのだろう、とりんは思う。

・・・半妖を生み出す、人と妖の恋。
それは、人間の生きる世界では、到底受け入れてはもらえない、「禁忌」とすら言われるものだ。

りんとて、人里で自分の恋が理解してもらえないのは仕方のないことなのだと、ずっと諦めていた。
・・・邪悪な妖怪しか知らない人間たちに、この気持ちが分かるはずがないのだから、と。

けれどこの里には、りんと同じように妖怪と縁を結んだ人間の女性が何人もいる。
戦や病、夜盗に追われてなど、女たちがこの里へやって来た理由は皆それぞれだったが、
結界で遮られたこの里で生きていくということは、生まれ育った土地や人々に別れを告げ、
妖の世界で生きることを決めたということだ。

愛する者たちから離れて生きる寂しさは、りんにもよく分かる。
しかしそれを乗り越えてでも妖と縁を結び、半妖を生み育てている女たちがいるということは、
殺生丸と生きていくと決めたりんにとっては、本当に涙がでるほど心強く、嬉しいものだった。

人里では許されぬ妖との恋も、ここではごく当たり前のことだ。
殺生丸はきっとずいぶん前から、りんと共に生きる道を考えていてくれたに違いない。
そして、この里を見つけてくれたのだ。
・・・半妖たちが、のびのびと暮らしている、この里を。

それならば、とりんは思う。
この里で、自分も何かの力になりたい、と。


「 ・・・ね、あたしたちも医王庵へ行ってみよう、邪見さま。
  その怪我をしている妖怪、うわごとばかり繰り返しているなんて、よっぽど何か
  大切なことがあるんだよ。
  何か、私たちにも力になれることがあるかもしれないでしょう?」

りんの真剣な顔を見て、邪見は大きなため息をついた。

「 まったく・・・物好きじゃな、おまえは」

あきれたようにそう言ってやれやれと首を振る邪見を見て、りんと小梅と小竹は、顔を見合わせて
嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 


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