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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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神成りとむすめ<7>













神成りとむすめ<7>




拍手[53回]


 

 

―――― 妖の名は、案摩<あま>、という。

 

 

かつて人間だった男は、遠い昔、人柱として地中に埋められた。


―――― 荒ぶる水神さまの怒りを鎮めるためなんだよ・・・。
―――― このまま雨が続けば、川が溢れて村が飲み込まれちまう。
―――― おまえが人柱になれば、村が救われるんだよ。

疲れきった顔を背けたまま、両親は男にそう言った。


男は、生まれついて体が弱かった。
起き上がり、外へ出ることも叶わぬほど・・・
人柱に選ばれたことを、家族が泣くことすらできぬほどに。

男は、人柱に選ばれたと聞いた時、顔を背けたままの両親に向かって、
心からの笑顔を浮かべて言った。

――父上さま、母上さま。

このような病ばかりの私でも、この里の為にできることがあるのですね。
ならば、私は喜んで人柱となりましょう。

この里が、それで救われるのならば・・・・と。


―――― 男は、この里を愛していた。

寝たきりのまま、病床の窓から見えるわずかな外の世界を。
春は桜、夏は蛍、秋は紅葉、冬は雪。
嬉しそうに走り回る童の足音、歌う声。
夕闇に鳴く、鈴虫の声――――。

病床の窓から見える、美しい里の風景。
小さな窓からしか見ることができなかった、愛しい里の風景。

脆弱なこの命で、荒らぶる神の怒りを鎮めることができるのならば、と
男は、生まれて初めて誰かの役に立てることを、喜んだ。


・・・男の弱い心臓が、人柱として地中でその鼓動を止めても、男の魂は消えなかった。

・・・どうしても、消えることができなかった。


男は、両親から聞いていた。
人柱となった人間は、荒ぶる神への供物(くもつ)になるのだ、と。

男は、息のできない苦しみの中で、死の間際まで待っていた。
・・・己を喰らうという、荒ぶる神を。

けれど・・・荒ぶる神とやらはいつまで待ってもやってこなかった。

―――― 哀しいくらいに真っ暗な地の底で、男は思った。


私は、あの美しい里を、本当に救うことができたのだろうか・・・?


体を無くし魂となった今、男は生前のように病床に縛られているわけではない。
けれど、暗い地の底から、男はどうしても出ていくことができなかった。

ここから出てしまったら、あの美しい里が、また荒ぶる神とやらの怒りに触れるかもしれない。
荒ぶる神が贄(にえ)を欲しているのなら、私は供物として喰われねばならぬ。
そのために、私は人柱になったのだ。

だから・・・私はきっと、ここから出てはならぬのだ――――。

魂だけになった男は、真っ暗な地の底で神を待ちつづけた。
10年待ち、20年待ち・・・・いつしか、どれだけ待っていたも分からなくなってしまった。

・・・それでも、ただひたすらに男は待ち続けた。

そして、暗い暗い地の底で、美しい故郷の里を想い続けた。

かつて己が、人間であったことを忘れるほどに長く、長く――――。

 

 

ある日、地面の上から声が聞こえた。
やさしい、やさしい、春のひかりのような声だった。

「まあ・・・おまえ、こんなところで何をしているの?」

真っ暗な地の底の世界にいた男の目の前に、地上から白い手が差し出された。

「ほら、そんな暗いところにいないで、出ていらっしゃい」

ずいぶん長い間、暗闇の中にいた男には、その白い手の美しさは・・・あまりに眩しかった。
白い手に掛かる幾重もの衣の重ねは、萌えいずる春の色。

男は、暗い地の底に差し込んだ色彩のあまりの眩しさに、かつて己が神への供物であったことを、

――――・・・忘れた。


「今日は、とても良いお天気よ。 そんなところにいても、つまらないでしょう?」

「――――・・・はい・・・」


・・・・言葉を発したのは、いつぶりか。

やさしい白い手を握り、男は暗い地の底から、初めて顔を出した。

男の魂は、長い長い年月を経て―――― 妖となっていた。

白い手の持ち主は春の女神。
春色の衣を幾重にも身に纏った、あどけない少女の姿。

「 ほら、ね? いいお天気でしょう?」

眩しそうな妖の顔を見て、女神は、ほんわりと笑った。


困った顔をして、行くところがない、と言う妖に女神は名を与え、傍におくことにした。

妖の名は、案摩<あま>・・・・地を鎮める妖、という意味である。

 

 

 


―――― その案摩が、医王庵でうわごとを繰り返している。

 

 

 

 

「・・・・姫さま、と、何度も・・・?」

りんの問いかけに、詠月が頷いた。

「ええ、そうです。 
 昨夜から何度も何度も、「姫さま、姫さま」とうわ言を繰り返しているのです。
 怪我そのものは、かすり傷のようなものですから心配はありません。
 ずいぶんと、衰弱はしている様子ですが」

「そうですか・・・」

りんが心配そうに眉を潜めたのを見て、詠月は三つの目で布団に寝かされている妖を見た。

「・・・りんさまは、初めてご覧になられるかもしれませんが、
 この妖は、妖怪というよりは、いわば精霊に近い存在です。
 精霊は私たちのように生身をもつ妖ではありません。
 彼らは私たちのように食事の習慣がありませんので、
 この里で作っている飲み薬が効くかどうか分かりません。
 とりあえずは、この妖自身の妖力が回復するのを待つしかありませんね。」

「な、生身じゃない? 幽霊みたいなもんか・・・?
 じゃが、足はちゃんとあるし、布団に寝ておるし・・・」

邪見が気持ち悪そうに言うと、柚月が困ったように笑った。

「まあ、この妖の場合は、幽霊と言うよりは、やはり精霊というべきでしょうね。
 生身を持たぬ精霊とて、霊位を高めることにより、人形を保つことは可能です」

「精霊・・・ですか」

りんには、妖怪と精霊の違いがよく分からなかった。
つい先頃まで人間だけに囲まれて人里に住んでいたのだから、分からないのも無理はない。
精霊と言われる存在を目の当たりにしたのも、初めてだ。
何が違うのだろう、といった顔をしたりんを見て、詠月は目を細めた。
教え子に向ける師の眼差しは、暖かい。

「りんさま、古い大きな樹木の周囲には、木霊(こだま)が出るのはご存じですね?
 彼ら、木霊(こだま)も、精霊の一種なのです。
 精霊とは、親となる何か特別に強い霊力を源として、己の姿形を保っている存在です。
 朧げな姿の木霊と違い、この妖はとてもしっかりとした姿形を保っています。
 よほど高位の霊力をお持ちの主がいるはずです。
 繰り返している「姫さま」という方が、きっとこの妖の力の源なのだと思うのですが・・・」

「そうなんですか・・・」

りんは、詠月と柚月の博識ぶりに驚くばかりである。
柚月はりんと邪見を見て、安心させるように微笑んだ。

「それに、うなされてはおりますが、、この妖からは恨みや憎しみなどの
 負の霊気は伝わってまいりません。
 むしろ・・・とても清々しい霊気さえ感じます。
 そもそも、この妖が禍々しい妖気を纏っていたのだとしたら、
 闘牙王さまが作られた、この医王の里の結界は越えられませんからね。
 ご安心いただいて大丈夫ですわ、りんさま、邪見さま」

詠月も、寝ている妖を見ながら、口を開く。

「・・・恐らくこの妖は、何か理由があって、主となる強い霊力から離れてしまったのでしょう。
 この里の結界を越えてきたということは、助けを求めていたということなのでしょうが・・・」
  
そう言う詠月の声は、低くて穏やかだ。
殺生丸さまとは少し違う、低い声。
りんは詠月の声を聞いて、いつもそう思う。

「何か・・・私にできることはありませんか?」

りんは、詠月と柚月を見上げた。
飲み薬が効かないのであれば、この寝込んだ妖にりんがやってあげられることは、限りなく少ない。
詠月の言うように、寝ている妖には大きな怪我は見あたらない。
けれど、何か役に立てることがあるのなら、力になりたかった。

うわ言で名前を呼び続けるとは、よほど気がかりなことがあるのだろう。
その「姫さま」という主と、はぐれてしまったのだろうか。
りんが心配そうに、布団に寝かされた妖をのぞき込むと、邪見がうさんくさげにその妖を見た。


「それにしても、変な面じゃの~・・・」


その妖は、一見、人間の男にしか見えなかった。
総髪をうしろで束ね、直衣姿に烏帽子。
まるで神主のような格好だが、妙ちくりんな布のお面を付けている。
人の顔を模した模様にも見えるが、りんは初めてみる面だった。

寝床に寝ていた男を見たとき、りんは思わず詠月に
「この人、人間じゃないんですか・・・?」
と尋ねてしまったほど、妙ちくりんな布の面以外は人間にしか見えない外観をしている。

「・・・・うーーー・・・ひめさま・・・・」

布団に寝かされた妖が、うめいた。
微かに面の下の瞼が開いたような気がして、りんは思わず枕元へ近寄り、声をかけた。

「あの、大丈夫ですか・・・?」

すると、りんの声に、妖がピクリと反応した。
明らかに、先ほどとは違うその様子に、邪見が寝ている妖をのぞき込んだ。

「・・・お? 起きたのか?」

「今、りんさまの声に、反応したように思いますわ」

詠月と柚月が、りんの後ろから寝ている妖を覗き込んだ時だった。

寝ていた妖が、がばっっと布団をはねのけて上半身を起こし、
飛び起きざまに、りんの手をがっしと握った。

「きゃっ!」

「ひっ・・・姫さま・・・! あぁ、よかった!!お怪我はございませんかっ?!」

「あ、あ、あの・・・」

「この案摩、一生の不覚・・・・!!!
 あの程度の魑魅魍魎どもに車を落とされてしまうとは・・・!!」

「あ、あの、あ・・・」

「もう大丈夫でございます!
 この案摩が姫さまを出雲までご案内いたしますゆえ、どうかどうか、ご安心を!」

りんの手をがっしりと握り、まくし立てている妖を、皆思わずあっけにとられて見ていたが、
邪見はハッと我に返ると人頭杖を握りしめて叫んだ。

「こっこここ、こら――――っ!! 貴様、りんから手を離さんか―――っ!!!」

「・・・・・え?」

妖はその声で自分を取り囲んでいる面々に初めて気がついたようで、
その妙な面を邪見の方に向けると、続いて詠月と柚月を見上げ、改めてりんをまじまじと見た。
・・・お面越しなので、ちゃんと見えているのかどうか、りんには分からなかったが。

「・・・ん? 姫さまにしては、ずいぶんと粗末なお召し物じゃの・・・。
 いや、じゃが、しかし・・・・」

妖の言葉に、邪見はわなわなと震えだす。

「り・・・りんの着物を、粗末な着物じゃと~~~?!
 殺生丸さまがりんの為に仕立てた物を・・・!! 貴様の目は節穴かっ!!
 この無礼者めが!! 貴様、いったい誰に向かって物を言っておる!!
 貴様の言う姫さまとは、どこの誰じゃいっっ!」

怒り狂う邪見に失笑しつつも、りんは妖へ向き直り、口を開いた。
びっくりはしていたが、最近は邪見が騒げば騒ぐほど、冷静になる自分がいる。

「・・・あの、案摩さん・・・とおっしゃるんですか?
 とりあえずは、お元気そうで安心しました。
 あなたは昨夜、この里へたどり着いてから、ずっと寝込んでいらっしゃったんですよ。
 姫さま・・・とは、どなたですか?
 もしかして、はぐれてしまったの・・・?」

安心させるように話すりんの顔を、面をつけたまま、案摩がまじまじと見つめて言った。

「・・・・・・姫さま・・・では、ないのか・・・? そんな・・・・!
 じゃが、その・・・あまりに・・・」

「 貴様、いいから早くその手を離さんかっ!!
  さっきから貴様の言っておる「姫さま」とは、誰じゃいっ!!
  ここにおるのは殺生丸さまの妻である、りんじゃっ!!!」

邪見が大声でまくし立てる横で、りんはかすかに赤くなって頷いた。

「 ・・・私の名は、りんです」

殺生丸の妻といわれても、実際のところはたった一度、夜を共にしただけだ。
実感はまだないし、大声でそういわれると恥ずかしい。
赤くなって頷いたりんを見て、妖は再び、あわわ、と取り乱した。

「 ・・・ひ、姫さまではない?! では・・・姫さまは・・・?!
  わ、私は、どうしてここへ・・・」

りんの手を離し、わなわなと震える妖に、詠月が穏やかな声で問いかけた。

「その、姫さまというのは、いったいどなたですか?
 この里までたどり着いたのは、案摩さん、あなたお一人だけだったのです。
 その左腕の打ち身は・・・? 何かにひどくぶつけたような傷でしたが・・・」

妖は、はっとしたように包帯を巻かれた左腕へ手をやると、
自らを落ち着かせるように、震えるため息をついた。
不思議な顔を描いた布の面が、かすかに揺れた。

「・・・これは、あなたがたが手当をしてくださったのか・・・。かたじけない」

妖は、律儀にも布団の上へ正座し、居住まいを正した。
見た目だけでなく、そんな仕草も妙に人間じみている。

「・・・私は、伯耆の国の土地神、佐保姫(さほひめ)さまにお仕えする神使の案摩と申す者です」

そう言う案摩に、邪見がうさんくさげな目線を投げる。

「怪しいのー・・・。おまえが神使じゃと?!
  神使とは、白蛇や白狐や竜など、格の高い神獣と相場が決まっておるもんじゃぞ?」
 
邪見の言葉を受けて、案摩は心持ち、肩を落とした。

「 いや、そう言われると肩身が狭いのだが・・・。私は確かに、生まれながらの神使ではない。
  元は、佐保姫さまに拾っていただいた、名も無き妖だ。
  だが、それゆえに私は、佐保姫さまに言い尽くせぬほどの恩義を感じておる。
  佐保姫さまに 誠心誠意お仕え申し上げて参ったその気持ちだけは、
  他の神々の、どの神使たちにも負けぬつもりだ・・・」

案摩は、布団の上でぐっと拳を握って下を向いた。
柚月は、そんな案摩をいたわるように、優しい声をかけた。

「・・・では、案摩さんの「姫さま」とは、その佐保姫さまなのですね?
 寝込んでいらっしゃる間、ずっと「姫さま」と繰り返していらっしゃいましたわ。
 あなたの霊気は、とても、ただの妖とは思えぬほどに清々しいものでした。
 それは、きっと土地神さまの霊気の残り香だったのですね。
 佐保姫さまとは、どこかではぐれてしまったのですか?」

優しい柚月の顔を見上げ、案摩はほっとしたように話し始めた。

「・・・数日前、佐保姫さまと私は、出雲の神議りに出席するために社から旅に出たのです。
 まあ、佐保姫さまの社から出雲までは近うございますゆえ、旅というほどの距離でも
 ございませぬが・・・」

案摩の言葉に、りんと邪見は思わず顔を見合わせた。
十日前、殺生丸が狗神として赴いたのも、出雲での神議りだったはずだ。
ということは、この案摩の主、佐保姫と殺生丸とは出雲で顔を合わせるということなのだろうか。
案摩の言葉に、詠月と柚月も顔を見合わせている。

「・・・出雲の神議り? あの、縁結びをするっていう・・・?」

どきどきしながら尋ねたりんに、案摩は、はい、と頷いた。

「土地神である佐保姫さまには、毎年出雲の大国主さまから、お呼び出しがあるのです。
 ・・・佐保姫さまは、普段あまりお社からお出ましになることはございませぬ。
 お社には、毎日のように人間たちがお参りにやってくるからです。
 佐保姫さまは、人間たちの願いにも、毎日きちんと耳を傾けられておられます。
 姫さまは、とてもお優しい神さまゆえ」

案摩は、そういうと嬉しそうに微笑んだ。
面の下に隠れた顔が、ほころんでいることがりんにも分かる。
きっとこの案摩は、佐保姫さまという主をとても慕っているのだろう。

「佐保姫さまにとってこの一年に一度の出雲行きは、お社から出て、空から土地の者たちの様子を
 見て回る、とても良い機会なのです。
 それゆえ、毎年、余裕をもって少し早めに出立するのですが、今年は社を出て幾ばくも
 せぬうちに、乗っていた車が落下してしまったのです」

「・・・くるま?」

首をかしげたりんに、案摩は頷いた。

「はい。風で動く牛車のようなものでございます。
 風が早ければ早く、風が遅ければ遅くしか進まぬ乗り物ですが、空を飛んでゆくのです。
 毎年、私は神使としてこの車の御者を勤め、伯耆の国をすみずみまで見て回ったのち、
 佐保姫さまを出雲までご案内申し上げて参りました。
 ところが本年は、社を出てすぐに、車が空を飛ぶ怪しげな魑魅魍魎どもの群と
 ぶつかってしまいまったのです・・・!
 御者をしておりました私は、不覚にもその衝撃で空から落ちてしまいました」

「空から落ちてしまったの・・・!?」

「はい・・・・」

案摩はしゅん、と肩を落とした。

「・・・私は、空を飛べませぬ。 元々は、地の性質を持つ妖だからです。
 ・・・恥ずかしながら、あまりの恐ろしさに気を失ってしまいました」

りんは唖然としてしまった。
高い空から落ちるだなんて、人間だったら間違いなく死んでしまう。

「この腕を手当してくださったこと、心より感謝申し上げます」

そう言い、案摩は両手を膝の前につき、きっちりと頭を下げた。

「私は神使として、佐保姫さまの元へ戻らねばなりません。
 私は佐保姫さまという神の息吹を受けて、初めて形を保つことの出きる妖です。
 私が消えぬと言うことは、佐保姫さまもご無事ということでしょう。
 ならば、急ぎ主の元へ戻らねばなりません」

詠月と柚月が、困ったように顔を見合わせた。
柚月が困った表情のまま、頬に手をあてて口を開く。

「 お話は分かりましたが・・・。
  私共としましては、今、佐保姫さまの元へあなたをお連れすることはできませんわ」

困った顔をした柚月を見上げて、案摩は朗らかに笑う。

「 いえいえ、ご心配は無用にございます。
  何もあなた方に連れていっていただかなくとも、私が己の足で歩いて行けばよいのですから。
  怪我は、たいしたこともありませぬし・・・」

「 いえ、そうではないのです」

穏やかな詠月の声が、立ち上がろうとする案摩をとどめた。
りんは不思議そうに詠月と柚月を見上げた。
どうして、主のもとに戻ろうとする彼を止めるのだろう。

「 案摩どの、伯耆の国の神使どのであれば、『医王の里』の名をお耳にされたことは・・・?」

詠月の言葉に、案摩は驚いたように言った。

「 なんと・・・!
  その名を知るとは、そなたたちは一体何者なのです?!
  今では、その名さえ知るものは少ないはずでは・・・?
  確かに、遠い昔に佐保姫さまの元で、このような歌を耳にしたことはございます。

  『医王の里は、狗神の治めし、この世の向こうの隠れ里。
    伯耆の国にて伯耆の国に在らず。
   彼の里に伝わるは、珠玉のごとき不老長寿の秘薬なり。
   何人たりとも、里に入ること、まかりならず―――・・・」 

  この歌の「狗神」とは、かの名高き西国妖怪の総大将、闘牙王さまだと、
  佐保姫さまより伺ったことがございます。
  けれど、闘牙王さまが亡き後、その隠れ里への道は絶えてしまったと聞いておりますが・・・」

案摩の顔を見ながら、柚月が遠慮がちに言った。

「・・・正確には、里への道は途絶えてはおりません。
 病を得ているもの、体を損なっている者、そして助けを求めるものにのみ、
 結界は開かれるのです」

案摩が、里長の兄妹をまじまじと見て、はっと気がついたように、大声を上げた。

「まっ・・・まさか、ここはその、『 医王の里 』 か・・・!?」

「 もしかしなくても、そうじゃわい」

驚きを隠せない案摩に、邪見はため息をつきながらそう言った。
 




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参考までに、案摩のイメージ ↓

f3503d76.jpg

























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