あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

神成りとむすめ<11>



 

「・・・・・・・り・・・ん・・・?」

 


驚きに見開かれた金色の眼差し。

けれど、その名を呼んでから、大妖はその差異に気付いた。

・・・よく、似ている。
似ているが、目の前にいるのは・・・・りんではない。

 


殺生丸は目を細めて、目の前に立つ女神を見上げた。
女神は微笑み、銚子を差し出す。


「・・・・御一献、いかがです? 殺生丸さま」

 

りんによく似たその笑顔は、ほんの少しだけ、緊張している。

 

 

 

 

 

 

 


神成りとむすめ<11>

 

 

 

 

 

 


「・・・・・・いや」


女神を注視したまま、殺生丸が低い声で酒を断ると、女神は銚子を持ったまま、
殺生丸に近づいてきた。
柔らかな春色の重ね衣が、ゆらゆらと揺れる。

「・・・お会いしとうございました。先ほどから、どちらにいらっしゃるのかと探していたのです」

そう言う女神の衣から、ふわり、と優しい春の香りがした。
殺生丸はその香りに、思わず目を細める。

・・・りんの香りとは、違う。
あの娘は、もっと明るい、陽向の匂いを纏っている。

・・・だが、この春の香りは・・・先ほどの女神たちとは全然違う。
柔らかで優しい、春そのものの香りだ。

纏っている衣(きぬ)も髪を結い上げたその姿も、まったくりんとは違う。
それなのに、なんと似ていることだろう。

信じられない思いで、殺生丸は胡床に腰掛けたまま、女神を見上げていた。

 

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「・・・殺生丸さま」

声も・・・・似ている。

神酒に酔っているせいなのだろうか。
殺生丸は、思わず目の前の女神を抱き寄せたい衝動に駆られた。
りんが華やかな衣装を纏い、髪を結い上げたら、きっとこの女神と瓜二つに違いない。
初めて殺生丸を受け入れた夜の、りんの艶やかな姿を思い出す。

・・・思わず伸びそうになった己の腕を、かろうじて理性で押しとどめた。
目の前の女神は、りんではない。

(・・・・件(くだん)が言っていたのは、この女神か・・・)

件(くだん)には、きっとこの女神の姿が見えていたに違いない。
殺生丸は思わず女神から視線を逸らして、杯を持っていない方の手で、口を覆った。
件(くだん)が、己のこの悩ましい葛藤も見透かしていたのだとしたら、さすがに腹が立つ。
眉間に、深いしわが寄った。

「・・・あの・・・殺生丸さま」

遠慮がちな女神の声に、殺生丸は鉄面皮のまま、思わずそっぽを向いた。
酔いが醒めやらぬ今の己にとって、りんに似すぎている女神の姿は、あまりに目に毒だ。
目にしているだけで、有無を言わさず抱き寄せてしまいそうになる。

「・・・・私は、伯耆の国の土地神、佐保姫ともうします」

伯耆の国、という女神の言葉に、殺生丸はぴくりと動いた。
りんを連れていったあの妖の里は、伯耆の国にある。
佐保姫は、あの医王の里に住むものたちの、産土神(うぶすながみ)ということになるだろう。
となれば、殺生丸にとっても無関係ではない。

「・・・・伯耆の土地神が、私に何用だ」

分かっているのに、必要以上に冷たい声が出てしまった。
どうも、うまく己が制御できない。
殺生丸の凍りつくような声に、佐保姫は萎縮した声で、それでも決心したように、言葉を紡いだ。

「殺生丸さまに、お願いが・・・あるのです」

「・・・・願い・・・?」

殺生丸が佐保姫の方を向くと、佐保姫は途方に暮れたような表情をしていた。
結った髪に挿された、桜の花が風に揺れている。

「・・・・どうか、わたくしの神使をお返しくださいませ、殺生丸さま」

「・・・・・・・・。」

殺生丸は無言のまま、片眉を上げた。
思い当たる節が、ない。

今のところ、殺生丸の神使は、あの件(くだん)だけである。
件(くだん)から、身の上話は・・・闘牙王との馴れ初めは、あの神成りの道を抜けてから、聞いた。
殺生丸が聞いた話では、件(くだん)は闘牙王に救われたのちに、初めて神使として
出雲へ随行するようになったと言っていた。
それまでは、先見の力を欲する妖たちから命を狙われていた、と。
命を救ってくれた闘牙王に恩返しをするために、神使になったのだ、と。

「・・・・私には、神使は一匹しかおらぬ。・・・・あなたの神使を預かった記憶は無いが」

低い声でそう答えた殺生丸に、佐保姫は困ったように微笑んだ。
そんな表情は、ほんの少し、りんより大人びて見える。

「・・・お預けしたのは、先代の闘牙王さまでございます。
 ご子息の殺生丸さまが狗神になられた暁には、返してくださるというお約束でございました。
 ・・・殺生丸さまは、小さな香炉に住む翁を存じませぬか?」

佐保姫の言葉に、殺生丸の金色の瞳が、やや見開かれた。

「・・・時巡りの翁か」

殺生丸の言葉に、佐保姫はやっと緊張がほぐれたらしく、嬉しそうにふわりと微笑んだ。

「 やはり、御存じでしたか。
  あれの本当の名は、「弐ノ舞」というのです。
  ・・・殺生丸さまが出雲へ参られたということは、あれは無事にお役目を果たしたのですね」

嬉しそうにそう言う佐保姫の表情は、あまりにりんに似ている。
殺生丸は軽くため息をついて、佐保姫の表情から視線を逸らした。

「 ・・・あの香炉なら、我が母が住む天空の城にある。 私にはもはや必要のないものだ。
  ・・・返してほしいのなら、お返ししよう」

殺生丸は、ゆらり、と胡床から立ち上がる。
立ち上がってみると、佐保姫が思ったよりも華奢で小さいことに気がついた。

・・・それにしても、目の毒だ。
思わず見つめてしまいそうになるし、何よりも、一刻も早くりんをこの腕の中に抱きたくなってしまう。
佐保姫から視線をそらせたまま、殺生丸は低い声で言った。

「・・・私はもう、出雲を発つ。
 時巡りの香炉は、使いを出して、あなたの社まで届けさせよう。
 ・・・それで、よろしいか」

すでに背を向けた殺生丸に、佐保姫は慌てて言った。

「 そ、それと、もう一つ・・・!」

「・・・・・?」

いつの間にか、殺生丸の片方の袖を、佐保姫がぎゅっと握っている。
振り向くと、必死な顔で、佐保姫が殺生丸を見上げていた。

「・・・・・・」

感情を押し殺した金色の瞳が、女神の表情に捕らわれる。


・・・・いつだったか。
りんがまだ幼い頃、こうやって袖を掴んではなさないことがあった。
「 行かないで、殺生丸さま」 と。
あれは、人里に預けて間もない頃だったように思う。
あの頃のりんは、頬のふくふくとした、ずいぶんと可愛らしい童だった。
大きな目に涙を溜めて、それがこぼれ落ちないように必死になっていた。
「行かないで」と言葉に出した後に、我慢できなくなって、結局、あの娘はぽろぽろと泣いた。
「恐れ多いっ!殺生丸さまの袖を放さんか、りんっ!」と賢しらに言う邪見に妙に腹が立って、
思い切り足蹴にしたのを覚えている。

・・・あの娘の未来を考えて人里に戻したものの、そうやってりんが寂しがり、
私を引き留めて泣くのが、不思議と心地よかったのは確かだ。
己のことをあんなにまっすぐに慕い、求めるものなど、数百年生きてきても、
ただ一人としていなかった。

(・・・何かに必要とされる心地よさを私に教えたのは、りんかもしれぬな・・・)

必死な顔つきの佐保姫を、無表情で眺めながら、この男はそんなことを考えている。

「・・・こちらに参る途中、わたくしはもう一人の神使とはぐれてしまったのです」

「・・・・もう一人の神使・・・」

酔った頭でぼんやりと繰り返した殺生丸に向かって、佐保姫は必死の表情で、こくりと頷いた。

「 出雲へ参る途中、私の乗った車が、地より湧き出る魍魎たちとぶつかってしまったのです。
  そして、御者を勤めていたわたくしの神使は、車から落ちてしまいました。
  場所はちょうど、闘牙王さまの結界の上でございます」

「・・・・・・父上の結界だと・・・?」

ぼんやりと酔っていた頭が、急に冴えてくるのを感じた。
それはつまり、医王の里だろう。
里には、りんを残してきている。

「 闘牙王さまから、真に助けを求めているものだけがあの結界を越えることができる、と
  聞いたことがございます。
  彼は落ちながら、闘牙王さまの結界に飲み込まれてしまいました。
  よほど、恐ろしかったのでしょう、可哀想に・・・。
  闘牙王さまの作られた結界は、とてもとても、強固なのです。
  それゆえ、あの結界の向こう側には、土地神のわたくしとて入ることができませぬ。
  どうか、あれを・・・案摩を、わたくしの元へお返し願いませぬでしょうか」

もはや、佐保姫の目には涙が浮かんでいる。
殺生丸は金色の目を細めて、握りしめられた己の袖を見た。

今、この袖をつかんで涙を浮かべている佐保姫は、恐らく、己よりずっと長い時を生きているに
違いない。 狗神となった殺生丸には、わかる。
彼女は、季節を司る力を持つ女神なのだ、と。

そして、殺生丸と違い、この佐保姫は生き神ではない。
りんとは違い、永遠にこの少女の姿のまま。

だから、「神」という存在に「長い時を生きている」という表現はおかしいのかもしれない。
が、何にせよ、そのような存在である佐保姫が、りんと瓜二つというのは何ともいえない心持ちがした。

「 殺生丸さま・・・・」

佐保姫の大きな瞳から、ぽろり、と大粒の涙がこぼれ出す。
殺生丸は、その金色の目をわずかに見開いた。

佐保姫のこぼす涙は、虹色の光を放つ石・・・宝珠となって、二人の足下にころころと転がっていく。

「 お願いいたします・・・あの案摩は、地の精霊なのです。
  わたくしから離れ、住み慣れた社の土地から離れては、姿を保つことが出来ぬかもしれません。
  消えてしまうかも・・・しれません・・・」

ぽろぽろと、佐保姫の春色の衣の上を、光る宝珠が転がっていく。
「神」である存在が、泣いている。
たかが神使という存在を案じ、心を痛めて。

「・・・・・」

殺生丸は、そっと手を伸ばして、佐保姫の頬を流れる涙をぬぐった。
手のひらで、涙は柔らかな光を放つ石へと変わる。

「・・・・泣かれるな、佐保姫」

佐保姫の瞳が大きく見開かれる。
先ほどの声音とは全く違う、低いけれど柔らかな優しい声音。
この妖は、こんな声を出すこともできるのか。

「・・・・・その顔で、泣かれるな」

瞬間、ふわり、と佐保姫は己の目線が高くなったのを感じた。

「・・・!」

いつの間にか、佐保姫は殺生丸に抱えあげられている。
そのまま、ふわりと宙へ浮く。

「殺生丸さま?」

「・・・・・・父の残した結界の里へ、参ります」


花びらが舞う空の上を、殺生丸は女神を抱えて飛んでいく。
きっと佐保姫は空を飛べぬ神なのだろう。
佐保姫が、鎧の一部を必死に掴んでいるのがわかった。
・・・空を飛ぶのは、怖いとみえる。

りんとの僅かな差異に、殺生丸は目を細めた。

陽向の匂いを纏うあの娘なら、こんな花吹雪の空の下を飛んでいけばきっと、
空へ向かって無邪気にその腕を伸ばすに違いない。
あれは、私に全幅の信頼を寄せている。空の上で怖がることなど、ありはしない。

下を見ると、神庭で神々が思うままに宴を楽しんでいる姿が見える。
それは、殺生丸が初めて体験した、出雲の神議り・・・神々の世界。

秋津島を支えているという神々は、思ったよりも個性豊かで感情的で、殺生丸さえ恐れるような力を
持っているくせに、皆、どこか短所があった。
されど、今はその神々の不完全さを、自然に思える己がいる。
この世界に完全なものなど、何一つない。
神とて、万能ではないのだ。
それが自然なのだと、神となって初めて知った。

・・・そして、どの神も皆、驚くほどに、この国に巡る命を愛していた。
自分たちとは違う、限りある命を。

「愛する」など、己にはずっと無用の感情だと思っていた。
かつては、己にそういう感情があることすら、理解していなかったのかもしれぬ。

(・・・・だが・・・)

大妖は思う。

すでに私は、「愛する」という感情を知っている、と。

りんという一つの命に触れることで、私の世界は急激に広がった。
その広さに戸惑い、思わず恐れを抱いてしまうほどに。

きっと私はこの先、今まで知ることのなかった悲しみや絶望をも、味わうことになるのだろう。
・・・りんという命を知ったがために、だ。

けれど、たとえそうだとしても―――――――・・・。

私はやはり、どうしようもなく、愛しているのだ。
りん、という命を。
その命がまた巡るならば、その命のために、この世界を守らねばならぬと思うほどに。

・・・・これはもう、崇拝に近いものかもしれない。
狗神という「神」になった私が、りんの命を、己の命よりも尊く感じているのだ。
私は、りんの中に「神」を見ているのかもしれない・・・。

 

現世(うつしよ)へ繋がる門へと空を飛びながら、殺生丸は、ふ、とわずかに微笑んだ。

(・・・・そして、今から私は、初めてりんのところへ「帰る」のか・・・)

今までは、「会いに行く」だった。
あの娘が元気に笑っていれば、それで十分だった。
それ以上を望んではならぬ、と己を戒めもしていた。

だが、これからは違う。

あれは・・・りんは、私と生きることを選んだ。
それならば、私もそれに応えねばならぬ。

私は、りんの元へと帰るのだ。
りんは・・・私の精神の拠(よりどころ)だ。
私の世界の中心に、あの娘が芯となって存在している。

・・・・私が還る場所は、そこしかない。



神議りの主催者であるという大国主(オオクニヌシ)の邸を越えると、
殺生丸はゆるゆると高度を下げた。
花霞の向こうに、大きな鳥居が見える。
現世(うつしよ)の出雲へ繋がる、神門である。

・・・件(くだん)が、帰る時には声を掛けろと言っていた。
きっと、まだ己に言っていない先見(=予言)があるに違いない。
本当に食えぬやつだ、と、殺生丸は苦々しく思う。


出雲の神門の前に、佐保姫を抱えたままふわりと降り立つと、門前に見えた光景に、
殺生丸は頭を抱えたくなった。

「・・・・まあ、まあ、これは・・・」

ふわりとその腕から降ろされた佐保姫が、驚きの声をあげる。

「 あなたは、確か・・・闘牙王さまと奥方さまがお連れになっていた・・・」

「 お久しゅうございます、佐保姫さま。今年は、殺生丸さまの神使として参りました」

件(くだん)がニコニコとして頭を下げる。
殺生丸に神様初心者講座をしていた時とは大違いの、やたら嬉しそうな笑顔である。
七日前は妙に畏まった態度でいたくせに。
そんな件(くだん)の姿に、戸惑うような顔で微笑みながら、佐保姫が殺生丸を振り向く。

「・・・・・・それにしても、ぴったりですね、殺生丸さま・・・」

殺生丸が頭を抱え、佐保姫が戸惑うもの、無理はない。
・・・・件(くだん)は、風で空を飛ぶという佐保姫の車に、牛車の牛のようにピッタリ納まっていた。

「 これは、殺生丸さまのご提案ですか・・・?」

戸惑いながらそう聞いた佐保姫に、殺生丸は軽く顔を振る。

「・・・・貴様・・・」

思わず低い声を出した殺生丸に、件(くだん)はにこやかに言う。

「さあ、お乗りくださいませ、二柱の神よ!
 医王の里まで、私がご案内いたしましょう。
 私の足とこの風ノ車の力を合わせたら、里までは一刻もかかりませぬ。
 いやー、私、昔から一度、車というものを引いてみたかったのです」

明らかに主を無視している神使の言葉に、佐保姫は件(くだん)と殺生丸を交互に見て言った。

「あの・・・本当に? よろしいのですか? わたくしは有り難いのですけれど・・・」

どう見ても確信犯の件(くだん)に、すまなそうに礼を言う佐保姫を見ていると、
殺生丸は怒るに怒れない。
文句を言いたいことが、山ほどあるのだが。


「・・・・・」

 

・・・・やはり供は、邪見一人でいい。

大妖は苦虫を噛みつぶしたような顔で、そう思った。

 

 

 

 

 


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拍手[58回]

comment

無題

  • hiroko 
  • 2011/03/29(火) 15:08
  • edit

拝読しましたっ(  ̄▽ ̄)
邪見よかったね、てのが一番の感想です(^^)
&続きが大変気になります~(*≧∀≦*)

無題

  • ゆきこ 
  • 2011/03/30(水) 00:12
  • edit

いぃ!
殺りんはやっぱり
最高です!!!

hirokoさん、ゆきこさんへ

  • 愛美 
  • 2011/04/01(金) 23:32
  • edit

メッセージ、ありがとうございます(*^_^*)
ここのところ、邪見と殺生丸さまの絡みがなくて寂しかったので、ちょっと悪戯心を出してしまいました(笑
何だかんだ言いながら、やっぱり殺生丸は、
『りん>阿吽>邪見>人頭杖』が公式ですからね!!!

続き、がんばりまーす☆

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