あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

神楽の風

 

――― あたしは、風だ
―――――― 自由な、風だ

 

――――― 風に還って、あんたの側を巡るよ

―――――― あんたに、良い風が吹くように

 


―――――― ・・・・あんたのことが、好きだった

 

 

 

 


神楽の風


 

 

 


―――――― 「 神楽 」と名を持つあたしが生まれたのは、ひどい嵐の夜だったよ。

 

あたしは、もともと、名も無き風の精だったんだ。

あの日、あたしはたくさんの仲間たちと一緒に、強い強い風で雨を運んでいた。
人間たちは、こういう風のことを 「 台風 」って言うらしいな。

目の前で、人間たちが逃げまどっているのが見えたよ。
川が氾濫して、木がなぎ倒されて、家が飛び、人間たちは泣き叫んでいた。

・・・・・あたしは、風の精だ。
運ぶ風は、そよ風ばかりじゃない。 時にはこうやって、荒れ狂う風にもなる。
でも、そんなことは、人間には分からないのさ。

あの日、人里へ荒れ狂う風と雨を運んだあたしは、憎しみをもって迎えられることになった。
だけど、あの頃のあたしは、人間たちの 「 感情 」 ってもんがよく分からなかった。
あたしは、風だ。 そこに、自分の意志でとどまることはできない。
だから、地面にへばりつかなきゃ生きることができない人間たちが、その生活を奪われる辛さも
苦しみも分からない。「憎しみ」なんて、想像がつかなかったんだ。


ただ、流されるままに生きている、風の精だったんだよ。

 


――――― だけどあの晩、そこに、奈落が現れたのさ。

あいつには、風の精であるあたしが見えていたらしい。
あいつは、こう言ったよ。


おまえに、名をやろう。 体をやろう。

風神の言いなりに、ただ流されるだけの、つまらぬ風の精よ。

・・・・・・己の意志で動く体が、欲しくはないか?
・・・・・・・自由が、欲しくはないか?

欲しくば、手を伸ばせ。 私に手を貸せ。
対価として、私はおまえに、体と命を授けてやろう。

―――――― おまえは、多くの妖を従える、強い風使いになれるだろう。


・・・・てね。

風の精として存在していることに、疑問すらもったことの無かったあたしには、奈落から向られた
言の葉は、ものすごく刺激的だったんだ。

ことり、と、生まれて初めて、心が動くのを感じたよ。

・・・・それに、その時あたしは初めて気がついた。
あたしの中に、「 生きてみたい 」っていう欲求があることにね。

風の精らしくないそんな願いを、あたしがひっそり胸に抱いていたことを、奈落は見抜いていたん
だろうね。

かくして、風使い「 神楽 」 は生まれたわけさ。
まあ、奈落の体のおかげで、そこそこ強い妖怪に生まれることはできた。

・・・・結局、奴の陰湿な支配の元でしか生きられない、ていうのが条件だったけどな。

それを知った時には、そりゃあ、怒り狂ったさ。 話が違うってな。
生まれるなり心臓は取り上げられちまうし、本当に勘弁してくれって思ったね。
自由なんて、一欠片もないじゃないか。

 

―――――― ああそうさ。 ・・・あたしはあいつに騙されたんだ。


結局あたしは、かつて風の精であったことも忘れ、半妖として、がむしゃらに生きた。
心臓を取り返して自由になってやろうと、必死だったよ。

・・・・・・・必死だったよ。

奈落の側にいるのは、辛くて、苦しかった。 あいつのことなんて、大嫌いだった。
いつだって、胸を掻きむしりたくなるほど、自由が欲しかったよ。
やりたくない仕事も、ずいぶんしたさ。
選ぶ権利なんて、あたしには無かったからな。

苦しいとき、いつも・・・・・心に浮かんだのは、殺生丸、あんたの姿だったよ。

あんたに・・・・・・助けてほしかったよ。


あんたのことが・・・・・好きだったんだ・・・・。

 


・・・・・。


なあ・・・殺生丸。


・・・・・・ずっと、見てたよ。


あんたが、犬夜叉たちと一緒に、奈落の体を粉々に砕くのを。

・・・・・あたしは、ずっと見てた。

・・・・爆砕牙を手に入れたあんたは、やっぱり強かったねえ。

 

あたしはね、あんたに限りなく憧れていたんだ。
誰にも屈しないその強さ、・・・・・その自由さに。

その強さで、あたしを解き放ってほしかった。

あたしも、馬鹿だよねえ。
どうしてもっと、素直にならなかったんだろう。
あたしの心が素直じゃなかったのは、心臓を作ったのが、根性曲がりの奈落だったからなのかねえ。

あんたは、死にゆくあたしを、天生牙で救おうとしてくれた。
・・・・だけど、無理だったんだよな。

そりゃあ、そうだ。
あたしは、風だ。 ・・・・・もともと体なんて、持っていなかったんだよ。
あたしは、天生牙では救われない命だったんだ。

こうやって、風に還ってみて、よく分かったよ。

あの体は、奈落の体の一欠片だったんだ。
あの赤い目も黒い髪も、背に蜘蛛の文様のある伸びやかな体も、あの心臓も。
生きていたときは、それが憎たらしくて仕方なかったよ。
あたしの意志で動く体なのに、よりにもよって、あんな嫌な奴の分身だなんてさ。

・・・・けれど、今は少し、よかったと思っているんだ。

死ぬ前のほんの少しだったけどさ、あたしは味わえたんだ。
心臓が動く音を、本当の痛みを、・・・・・・心が、泣きそうに嬉しい瞬間を、さ。

・・・・・あんたは、来てくれた。
・・・・・・最期に、会えた。

・・・・・・あたしを、救おうとしてくれた。


たとえ奈落の一部であっても、あたしの体と心が味わった幸せは、あたしだけのものだ。
・・・体を持たなきゃ、味わうことすらできなかったものだったんだ。

奈落が毒を注いで殺したのは、「 神楽 」 というあたしじゃない。
あいつが殺したのは、自分の体なんだ。 自分の体から作った分身を殺しただけなんだよ。
奈落は・・・あいつはただ、あたしが苦しむのを見たかっただけなんだよ。
そんなことしたって、自分の望みは叶いっこないのにねえ。
本当に、寂しくて馬鹿で、どうしようもない奴だよ、奈落は。

現にこうやって、あたしは体を無くしても、ここにいる。

あたしは、体が無くなったあの瞬間、風に還ったんだ。
死んだ訳じゃない。 あたしは、今でもここにいる。 「 神楽 」 のままで。

・・・・殺生丸、あんたは天生牙を手にしながらも、抜かなかった。
あんたには、分かっていたんだろう?
あたしの体が、死ねば塵に還ってしまう、奈落の分身だってことに。

・・・・それでも、あたしの最期を看取ってくれたあんたの目は、とても優しかった。
あんたは・・・あの時初めて、奈落の分身としてではなく「 神楽 」 に、会いに来てくれたんだ。
・・・そして、「 神楽 」 の命が消えていくことに、哀しみを抱いてくれた。

・・・・あたしは、あれからずっと、あんたの側にいたんだよ。
あんたは気が付いていなかったかもしれないけど、さ。

刀々斎が、あんたに「 自分ではない誰かの為に、怒り、悲しむ心 」が生まれていると言ったとき、
あたしは本当に嬉しかった。

あんたはあたしが死んだことを、心底怒り、哀しんでくれていたんだね。

・・・・あたしの命が、あんたを少しだけ変えた。
・・・・・そのことが、本当に、嬉しかったよ。


だから、どうしても、伝えたかった。


・・・・・ありがとう・・・ずっと、そばにいる、って。

 


残念だけど、あたしはもう、しゃべれない。

体は、もう塵に還ってしまったからね。

だからあたしはあの時、この気持ちを伝えたくて、戦いの天生牙を手にしたあんたに、花びらを
届けたんだ。 ・・・風にのせてね。

・・・あの日、あたしの命の最期に、二人で見た花びらを。


――――――  あの風に気がついてくれたのは、りんだったね。


・・・あの娘は、いい子だよ。

あいつは、あたしの気持ちに気がついていた。
最後に会ったとき、「 もう行っちゃうの? 殺生丸さまに助けて欲しくて来たんでしょう? 」
そう、あたしの目をまっすぐに見て、そう言った。
まったく、どうしてあたしの気持ちが分かったんだろうねえ。

・・・・まあ、でもさ。
風に還った今となっちゃあ、あたしもどうしてあんなに意固地になってたんだろうって思うんだ。

素直に、あんたが好きだって言ってしまえばよかったよ。
一緒に行かせてくれって、奈落からあたしを助けてくれって、言えばよかった。
あんたは、まっすぐに自分を慕う者を、絶対にないがしろにしないもんな。

・・・・あんたは、自分が思ってるよりずっと、生真面目だよ。
もっとあんたのことが分かってりゃ、あたしももっと素直になれたのにな。

・・・・ははは、まあ、言ってても詮無いことだけどね。

あたしの体は、奈落の体から作られたんだ。
奈落が滅びれば、分身のあたしたちは皆、共に滅びる運命だった。

・・・・早かれ遅かれ、死ぬ運命だったんだよ。

あたしは、自分の命と引き替えに、あんたの心を少しだけ変えた。
・・・・・それで、十分さ。


―――――― だけど、殺生丸。

たったひとつ、ずっと不思議に思ってることがあるんだ。
あんたとりんの間には、一体何があったんだい・・・?

人間なんて塵同然に思っているあんたが、一体全体、どうしてあんな人間の小娘を連れ歩くように
なったんだろうねえ。

あんたは、りんのことは何を差し置いてでも、必ず助けにきた。
・・・・よほど、大切に思ってるんだろうって、ずっと思ってたよ。


・・・だから、驚いたんだ。

奈落を倒した後、まさかりんを人里に置いていくとは思わなかった。


あんたほどの妖怪だったら、手元において守ってやるのが、一番安全じゃないか。
それを、どうしてわざわざ、人里なんかに置いていくのか、あたしには分からなかった。
りんだって、離れたくないってさんざん泣いていたじゃないか。

『 どうして、りんを連れて行ってやらないんだい? 』

あたしが生きていたら、絶対にそう聞いていただろうよ。
だって、自分が一番大切に思っているものを手放すなんて、考えられないじゃないか。

そう思いながら、風になったあたしは、あんたたちをずっと空から見てた。


・・・・・結局、あんたの気持ちは、すぐに分かったよ。

あんたは、りんに選ばせたかったんだろう?
りんは、人間だからな。 妖怪とは、ふつうに考えれば一緒には生きていけない。
生きる長さだって、全然違う。 今は子供だからよく分かってないけど、大人になれば、嫌でもそれに
気が付くだろうさ。

りんがそれを分かった上で、それでも自分の意志であんたを選ぶまで、あんたは、待ったんだ。

・・・・この数年間、あんたはりんのところへ、何度も何度も通ったよなあ。
マメに手土産を用意して、戦国最強の大妖怪が人間の小娘一匹のために、人里に通ってきてるん
だぜ。 ほんと、呆れちまうよ。

もう、体は塵になっちまったから胸が苦しくなることはないけれど、そんなあんたの姿を見るのは、
少しだけ・・・・・切なかったよ。

りんに向ける殺生丸の眼差しは、あたしが見たこともないくらいに優しくて、穏やかなんだ。
あんな顔、あたしは生きてる間、一度も見たことがない。
・・・あいつがあんな顔を見せるのは、りんだけなんだ。

・・・くやしくないって言ったら、嘘になるかな。
あたしは、今でも・・・・あんたのことが、好きなんだ。
だから、こうやって風に還ってからも、あんたのそばを巡ってる。

・・・・けどさ、ずっとこの二人を見ていて、あたしも気が付いた。

りんのことが特別なのは、殺生丸だけじゃないんだよ。 りんも、そうなんだ。
年頃に育ったりんが、あんなに嬉しそうな顔をするのは、殺生丸が来たときだけなんだよ。
ああ、この二人はお互いに、唯一無二の存在になっちまったんだな、って、そう思ったよ。

・・・・まあ、少しだけ切ないけど、それもいいさ。

幸せそうな二人を見てると、あたしも心がほっこりするんだよ。

あたしも風に還って、もう数年が過ぎた。
体を持っていたときの感覚は、どんどん薄くなってきてる。

やっぱり、自由な風でいることが、本来のあたしの姿なんだよ。
また、妖として生き返りたいとは思わないね。


・・・・あの時、あんたは来てくれた。 あたしの最期は、あんたに救われたんだ。

それで、十分さ。

 

・・・・なあ、殺生丸。

・・・・・・ありがとうな。

・・・・・・ 本当に、嬉しかった。

・・・あたしは、あんたの側を巡るよ。

・・・・・あんたに、良い風が吹くように。

これからも、ずっと、ずっと、あんたが気付いても、気付かなくても。


せっかく、自由な風に還ったんだ。

 

・・・・・思う存分、自由にさせてもらうさ。

 

・・・・・・・・・・・幸せそうなあんたを、風になったあたしに、たくさん見せてくれよ。

 

 

 

 

 


神楽の風




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