殺りん話を、とりとめもなく・・・ こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。
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大好きな人を待つ気持ち、りんにはよく分かるよ。
・・・だから、犬夜叉さまの気持ちも、よく分かるよ・・・
半分の孤独
りんにとって皐月は、思った以上に忙しかった。
暖かくなってきた途端、次々に芽吹いていく木の芽や草花。
薬草にするには新芽が最適だと教わったからだ。
生まれでたばかりの新芽は、草の精が濃いのだそうだ。
楓から教えられるままに薬草を覚えたりんが、
毎日のように芽吹いていくそれらを取りこぼさずに収穫するのは大変だった。
あっという間に、毎日がすぎていく。
今日は、クコの新芽を取りに来た。
このあたりでは、骨食いの井戸のあたりにしか、生えていない。
りんは、あの骨食いの井戸がすごく苦手だ。
よほどでなければ、一人で近づくことはない。
聞けば、村人たちが今までいくつもの妖怪の死骸を放りこんできたのだという。
しかも、それはいつの間にか消えてしまうのだと。
一体、消えた妖怪の体はどこへいったのだろう。
かごめさまが消えたのも、この井戸の近くだった。
あれからかごめさまはどうしているだろう、とりんは思う。
珊瑚さまのお話では、元いた世界に戻ってしまわれたのだという。
犬夜叉さまが、あまり詳しくはお話にならないから、
詳しいことは分からないけど、ということだった。
りんは、いつもいつもかごめさまと一緒にいたわけではないけれど、
かごめさまと犬夜叉さまとの絆は、とても強かったことを知っている。
あの、冥界の剣と戦ったときも、奈落の体の中で戦ったときも、
かごめさまは犬夜叉さまと一緒に戦っておられた。
琥珀のカケラを浄化してくださったし、誰も壊すことのできなかった
四魂の玉を最後に貫いたのはかごめさまの矢だった。
あんなに強くて清らかな女の人は、見たことがないと、りんは思う。
犬夜叉さまは、きっと寂しいと思う。
犬夜叉さまは毎日、村の人ができそうにもない力仕事を引き受けて軽々とこなしていて、
寂しそうなそぶりは誰にも、全く見せないけれど。
犬夜叉さまは、仕事を頼んだ村の人のおうちでご飯を頂いたり、
弥勒さまと珊瑚さまのおうちでご飯を食べたり、りんと楓と一緒に食べたりしている。
どこが、犬夜叉さまのおうちというわけでもない。
だけど本当は、かごめさまのところに帰りたいんじゃないかな、とりんは思う。
一度、木の上で夜を明かす犬夜叉にりんが声をかけると、
「おれは半妖だからな。別におめーらみたいに、布団で寝なくても大丈夫なんでい」
という答えが返ってきた。
確かに、殺生丸さまも布団では寝ていなかった、とりんは思い返してみたりする。
篭にいっぱいになった薬草を抱えて、りんは帰途につく。
骨食いの井戸の横を通るときは、少し怖かった。
りんはあまり近づかないように、離れて通り過ぎようとする。
まさに、りんの視界から骨悔いの井戸が消えようとした、そのとき。
「ちっきしょーーーーーっっ!!!」
大声が聞こえた。
それも、井戸の中からである。
「~~~~~~~~~っっ!!」
りんは、声もでず、一気に腰を抜かしてしまった。
中には、悪霊になった妖怪がいるに違いない。
抱えた篭がぼとりと地面に落ち、中からバラバラと薬草がこぼれ落ちる。
涙目でこわごわと井戸を振り返ると、赤い衣がすごい勢いで飛び出してきた。
「きゃーーーーーっっ」
りんは悲鳴をあげると、頭を抱えて地面に突っ伏した。
「お?りんじゃねぇか!」
頭上から降りてきた声に、りんは目をぱちくりする。
この声は・・・。
「い、犬夜叉さま・・・」
犬夜叉はりんの泣きべそ顔をみると、ぎょっとしたように周囲を見渡した。
一番気になったのは、あの恐ろしい兄の存在だ。
犬夜叉にとって幸い、りんは一人きりだった。
犬夜叉は気まずそうにがりがりと頭を掻きながら、りんに近づいてきた。
かがんで落ちた篭をひろうと、こぼれ落ちた薬草を入れ始めた。
「すまねえ、びっくりさせちまって」
りんは涙目で謝った。
「そんな、りんこそごめんなさい。井戸から死んだ妖怪がでてきたのかと思ったの」
犬夜叉は少し赤くなった。
「確かに、そう思われてもおかしくねぇな」
こぼれた薬草を全部篭の中に入れると、犬夜叉は立ち上がり、
へたりこんだままのりんに手をさしのべた。
「ほれ」
りんは手を差し出して立ち上がろうとしたが、どうもうまくいかない。
力が全く入らないのだ。
「あの、ごめんなさい、腰が抜けちゃったみたい・・・」
あはは、と力なく笑うりんを見て、犬夜叉は篭をもったまま、りんに背中をむけてしゃがんだ。
「ほら、おぶされ。楓ばばあのとこまで連れてかえってやるからよ」
銀色の髪の毛は殺生丸さまと同じ色で、りんはなんだか不思議な気持ちがした。
茜色の夕暮れが広がる、草原を、犬夜叉はりんをおぶって歩いていた。
「・・・犬夜叉さま」
「なんだー?」
ようやく、手足のこわばりが解けてきたりんは、犬夜叉に聞いた。
「あの、さっきは、かごめさまを探しに行かれてたの?」
犬夜叉は赤くなって、ぶっきらぼうに答えた。
「・・・ああ。昔はあそこからかごめの国にいけたからな。
七宝には言うなよ、あいつバカにするからよ」
りんはくすりと笑って、うんと答えた。
「ここには・・・犬夜叉さまの背中には、いつもかごめさまがいたね」
「・・・ああ、そうだな」
「犬夜叉さま、かごめさまに会いたいよね・・・」
幼い、けれど優しいりんの声は、妙に犬夜叉を素直にする。
「・・・まあな」
りんは、夕暮れ空にうかぶ、薄い三日月を眺めた。
「りんはね、満月の日に殺生丸さまに会えるのが、本当に楽しみなの。
毎日、早く満月にならないかなぁって思ってる。
いつもいつも、早く会いたいなぁって思ってるの。
犬夜叉さまも、同じだよね。
たぶん、かごめさまもそう思ってるんじゃないのかな・・・」
りんの匂いは、優しい日向の匂いだった。
あの殺生丸が、何よりも大切にしている、りん。
あいつが、大事にする理由も、なんとなく分かる。
「・・そうだと、いいな」
犬夜叉は、今まで誰にも素直に答えられなかった一言を、漏らす。
本当に、そうだといい。
毎晩、木の上で月を見ながら、かごめを想う。
かごめも、俺を想っていて欲しいと、そう思いながら。
「あのね、昔、おっかあが言ってたの」
「・・・?」
「嬉しいことは、誰かと一緒に喜べると、二倍嬉しいんだって」
「ふぅん」
「それでね、辛い気持ちや寂しい気持ちは、誰かと分け合うと、
辛い気持ちが半分になるんだって」
「・・・そっか」
「きっと、犬夜叉さまと同じくらい、かごめさまも会いたいって思ってると思うの」
犬夜叉はかすかに笑う。
「俺は、会いたい気持ちをかごめと『半分こ』してるってことか?」
「うん、りんは、そうだと思うなぁ・・・」
りんは、茜色と夕闇の入り交じった空を見上げる。
「・・・そうか。そう思っとくことにするか」
犬夜叉は、おぶったりんの顔を仰ぎ見た。
茜色に照らされたりんの顔は、とおく、空に浮かぶ三日月を見ていた。
「あのよー、りんは・・・殺生丸のどこが好きなんだ?」
犬夜叉は、ぼそりと聞いた。彼にとっては、素朴な疑問である。
りんは、嬉しそうに答えた。
「・・・全部、大好き」
犬夜叉は、空を見上げて理解できないと言うように頭を振った。
りんはそんな犬夜叉を見て、はにかんで笑った。
―――早く、大好きなかごめさまに逢えたらいいね、犬夜叉さま
犬夜叉を知る誰もが、そう思っていた。
皆のその願いが叶うのは、あと、少しだけ先。
半分の孤独・・・終
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