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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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かつての空

おすすめBGM。またもや、夏目友人帳。









逢いたい。

かつてのように、阿吽に乗って空を駆けていけるなら。


今すぐにでも、逢いにいけるのに・・・







かつての空

拍手[74回]

 

 


「大きな白い雲だね、りんお姉ちゃん」

「そうだね、白い雲だね」

「あ、お魚のかたちー!」
「違うよー、柄杓の形だよー」

「本当だね、どっちにも見えるね」

「ねえ、雲の上には神様が住んでるって本当?」
「お天道さまって雲に住んでるの?」
「違うよー、お天道さまは夕方には沈んじゃうもん」
「えー、おっとうから雲の上は神様が住んでるって聞いたよー」
「ねえ、りんお姉ちゃんは、どっちだと思う?」
「ねえ、りんお姉ちゃん!」

「雲の上はね、・・・雲の上には、お城があるんだよ」

「えー!お城?」
「本当ー?」
「すごーい、でも誰のお城?」
「神様?」
「竜が住んでるとか?」
「雲の中でも、ちゃんと立てるの?」
「ねえねえ、りんお姉ちゃん、誰から教えてもらったの?」
「ねえ、りんお姉ちゃん!」

りんは、微笑む。
どう説明したら、子供たちに分かってもらえるだろう。
でも、見たいから連れていってと頼まれても、りんには無理だ。

「・・・雲はね、煙みたいなものなの。人は通り抜けちゃうんだよ」

「じゃあ、じゃあ、神様だから雲に立てるの?」
「雲の上から、神様はみんなを見てるの?」
「りんお姉ちゃんは、雲を通り抜けたこと、ある?」

「うん、昔、通り抜けたことあるよ。朝もやと同じだったよ」

「朝もやと雲って、ちがうの?」
「ねえ、りんお姉ちゃん、教えてー」
「雲から雨が降るのは、どうして?」
「雲に入っても、濡れないの?」
「どうして雲からお水が落ちてくるの?」

「・・・雨はね、空から落ちてきてたくさん巡って、また戻っていくんだよ」

「戻るの?お空に?」
「どうやって、お空に戻るの?」
「ねえ、りんお姉ちゃん!」
「巡るって、どういう意味?」
「あ、おっかあだ!」

りんは立ち上がり、畑仕事から戻ってきた母親に微笑んで頭を下げる。
大きな籠を背負ったまま、母親も軽く頭をさげた。

「ありがとう、りん。預かってもらって助かったよ」
「いいえ、また、いつでも仰って下さい。さよなら、タキちゃん。また、明日ね」
「うん、りんお姉ちゃん、また明日ー」
「さよならー」
「さよならータキちゃん!」

母親が連れて帰ったたタキを皆で見送って、りんはまた草の上に座る。

村では田植えの季節になると、忙しい親たちのために、
幼い子供をりんくらいの年頃の子が子守をすることになっている。

今日も、りんは昼から4人の子供を預かった。
まだ襁褓がとれていない子供が二人いて、てんやわんやだっが、
りんは子供が好きだし、こういう仕事は頼まれると、とても嬉しい。

かぐや姫や、桃太郎、瓜子姫、舌切りすずめ、鶴の恩返し・・・
たくさんの昔話をしてあげた。

昔話をしているときの子供たちの顔を見ていると、つい何年前かの自分を思いだしてしまう。
殺生丸さまと、旅をしていた頃の自分。
殺生丸さまは一人でどこかに行ってしまわれることが多かったから、
りんは邪見さまと二人で何度も何度も夜を越した。
眠れない夜は、りんは邪見さまにずいぶん昔話をねだったものだ。
邪見さまのしてくれる昔話は、りんが聞いたことのあるかぐや姫や桃太郎などではなく、
神話に近いような古い物語が多かった。
イザナギとイザナミ、天の岩戸や、八俣のオロチ、因幡の白兎・・・。
りんは、目を輝かせて聞いた。今の子供たちのように。
「すごいね、どうしてそんなにたくさん知ってるの、邪見さま!」
そういうと、邪見さまはずいぶん嬉しそうにしていたっけ。
あの時の邪見さまのくすぐったい思いがわかる気がする。

あのまま、殺生丸さまと旅を続けていたら、
りんがこうやって子供たちに昔話をすることもなかったのだろうか。

空には夕焼けが広がっている。
村の衆も、そろそろ皆で引き上げてくる頃だろう。

「ねえ、りんお姉ちゃん!もう一回、かぐや姫のお話~」
「え~!桃太郎がいいよ~!」
「瓜子姫がいい~」

やはり皆、それぞれお気に入りがあるらしい。
りんは面白そうに皆の顔をのぞき込む。

「そうだなあ・・・じゃあ、全然別のお話してあげようか?」

「えー、なになに?」
「どんなお話?」
「聞きたい~」

大人に聞かれたら笑われるかもしれない。
戯れだと思われてもいい。
この子供たちなら、おとぎ話と思ってくれるだろうか・・・?

 

あのね、これは小さな女の子と神様のお話なんだよ。


むかしむかし、あるところに女の子が村に一人ですんでいました。

女の子はいつも一人で、村の人の施しをうけて、なんとか暮らしていました。
おっとうやおっかあが死んでから、女の子は声がでませんでした。
女の子は、笑うこともすっかり忘れていました。
いつも一人で、寂しい寂しい毎日をおくっていました。

ある日、女の子は森に白い光が落ちていくのが見えました。

なんだろうと思って、女の子は森へ行ってみました。
森に分けいると、そこには怪我をした男の神様がいました。
きっと、お空から落ちてきたに違いありません。
神様はとてもひどい怪我をしているようでした。
女の子が近づくと、毛を逆立てて怒りました。
まるで、怪我をした動物のようでした。
女の子は大変だ、と思ってお水をもっていきました。
次の日はキノコをもっていきました。
でも、神様は人間の食べ物を食べてくれません。

「人間の食い物は口に合わぬ」

神様に、そう言われてしまいました。
女の子は、神様が食べるものは知りませんでした。
本当は、神様は神様だから、食べ物を食べなくても大丈夫なのですが、
女の子はそんなことは知りません。

ごちそうだったら食べてくれるかもしれない、と女の子は思いました。
女の子の一番のごちそうは、お魚でした。
村の中の生け簀から、すこしだけお魚をもらおうとして魚を捕っていたら、
村の男の人に見つかりました。
そのお魚は、村の人が育てているお魚だったのです。
女の子はさんざん、男の人に怒られてたたかれました。
女の子は口がきけなかったので、理由を説明することもできませんでした。

当然、お魚はとれませんでした。
仕方なく、女の子は生えていた土筆をとってもっていきました。
神様は、やっぱり食べてくれません。
女の子は悲しくなりました。
神様は、このまま死んでしまうかもしれない。

そのときです。
神様は、女の子に話しかけました。

「顔の傷はどうした?」

神様は、女の子がぶたれた傷を心配してくれていたのです。
女の子は、嬉しくなりました。
優しい言葉を掛けられたのは久しぶりだったからです。
言葉を話せない女の子は、久しぶりに笑いました。

次の日、村にはたくさんの狼たちがやってきました。
とても乱暴な狼たちは、村の人を次々におそいました。
女の子は怖くて怖くて、神様の森へ向かって逃げました。

だけど、女の子も狼に追いつかれてしまいます。
女の子に何匹もの狼が襲いかかりました。
小さな女の子は、あっけなく狼に食べられてしまいました。
村の人も皆、狼に食べられてしまいました。

おなかが一杯になった狼がどこかへいってしまった後のことです。

神様は、いつもやってくる女の子が来ないのを不思議に思いました。
そして、森の中で女の子が狼に食べられてしまったことに気がついたのです。

神様は、自分に親切にしてくれた可哀想な女の子を生き返らせてあげました。

女の子は、以前より元気になって生き返りました。
言葉も話せるようになりました。
狼たちに噛まれた怪我も、男の人にぶたれた怪我も直っていました。

だけど、村には、もうだれも残っていません。

女の子は、神様と一緒に旅をすることにしました。
神様は竜を連れていたので、女の子は竜に乗って旅をしました。

女の子は、神様とずっと一緒に、幸せに幸せに暮らしました・・・

 

「すごいー、竜に乗ってお空を飛んだの?」
「女の子、助かってよかったねー」
「神様とずっと一緒にいるの~?」

子供たちの夕焼けに照らされた顔を見て、りんは微笑んだ。
細い一本道を、三人の女衆が歩いてくるのが見えた。
この子たちの母親である。

「ほら、お母さんがお迎えにきたよ」

りんがそう言うと、子供たちは顔を輝かせて振り向く。
「あ、かあちゃんだ~」
「お~い」
「かあちゃ~ん!」
手を振る子供たちに応えて、女衆も手を振っているのが見えた。
りんは立ち上がり、三人の子供たちを促すと、一本道を歩き始めた。
夕暮れの、村ののどかな風景。

かつて、神様のようなあの人と旅をしていた頃には、見ることのなかった風景。

りんが子供たちを母親に引き渡すと、
母親たちは籠の中から今日の収穫を少しりんに手渡した。
「楓さまと一緒に食べてちょうだい」
「わあ、ありがとうございます」
りんは、礼を言って笑顔で受け取る。
摘んだばかりの春の野菜は、いい匂いがした。

優しい村の人たち。
かわいい、子供たち。

「りんお姉ちゃん、またね~」
「また、お話聞かせてね~」
「さよなら~」

りんは手を振って見送る。

群青色と薄桃色の混じりあう、夕焼け空を見る。
穏やかな、春の夕暮れ。
たくさんの昔話と、子供たちの温もり。
村の中での一日。
幸せな日々。

・・・ここでの暮らしは幸せだ。

あれから、もう何年たっただろう。
かごめさまが戻られてから二度目の春。
あの人と別れて暮らすようになって、五度目の春。
りんの背丈は、ずいぶんのびた。

かつて空は、りんにとって阿吽の背に乗り、駆けるものだった。

山より高い空から、いったい何度夕日が落ちるのを見たことだろう。
峻烈な山々の間から立ち上る精気を浴びて黄金に輝く朝日を空の上から何度見たことだろう。
夜空を駆ける阿吽に乗って、月の美しい光を纏うあの人に何度見とれたことだろう。
ずっと、一緒に旅をするのだと信じて疑わなかった日々。

空は、いまや見上げるものになった。
りんは、地に足をつけて暮らしているのだから。


・・・逢いたい。


りんは、思わず泣きそうになって夕日を見上げた。

大切な思い出を、昔話などで語ってしまったせいだろうか。
想う気持ちが、溢れだしてしまいそうで。

りんは、涙がこぼれないように、ぎゅっと目を閉じた。

 


かつてのように空を駆けることができるなら、
今すぐ、逢いに行きたかった。

 

 






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