あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

ありふれたものの中に、それはありました<1>


殺生丸と、離れて暮らす、りん。
人里での暮らしには、りんの知らないことがたくさんあった。

そんな日常の中で、色んなことを、少しずつ、りんは学んでいく。

今回は、りんちゃんが「夫婦(めおと)」について、
色んなことを学んだ、短い旅の、少し長めのお話。





ありふれたものの中に、それはありました<1>


 


奈落が四魂の玉と消えてから、およそ一年が過ぎた。


村の復興は順調に進み、今年は農作物の収穫もまずまずの滑り出しである。
田植えも無事に終わったばかりで、村の中には和やかな空気が漂っていた。
戦国の世ではあるが、鄙びた寒村までは戦の気配は届かず、村人たちも平和な感覚を取り戻しつつある。
誰しもあのような禍々しい妖怪の厄災など早く忘れてしまいたい。
そのような気持ちの現れであろう、村人から祭などの年中行事を復活させようという話がちらほら聞こえるようになってきた。
鄙びた田舎には娯楽となるようなものはほとんどないし、できれば、人は日々の中に喜びや楽しみを見いだしたいものだ。

りんが夕飯の粥にする米を洗っていたときである。 数人の村人が、楓の小屋を訪れた。
皆、村のなかでは一目置かれている年配者である。 「 楓さまに相談なんじゃが・・・」 と、村人は切り出した。

だが、村人の提案を聞いた途端、楓は渋柿を食べたように顔をしかめてしまった。
村人たちも楓の反応は予測していたようで、困ったように、なんとか勘弁して下さらんかのう、と頭を下げる。
最後には楓も、ため息をついて「まあ、仕方ないことじゃ。今に始まったことでもないしの」といいながら、
村人に事細かに指示をだした。

りんは米を洗いながら、すぐそばでそれを聞いていたのだが、楓の指示を聞いていると、なにやら恐ろしくなってしまった。


子供は夕方から決して外へ出ぬこと。
祭りに加わらない女たちは、必ず戸に棒をして、夜は誰も入れぬこと。
そのような家に無理矢理押し入るようなことがあったら、厳しい罰を与えること。
万が一にも争いごとが起きたときのために、小刀はもちろん、
鎌などの殺傷能力のある金物は、祭りの前に年配者が預かること。
もしも喧嘩が起きたときは、必ず両成敗にすること。

いったい、何があるというのだろう。 
喧嘩、という言葉を聞いて、りんは少し目を見開いた。 ずいぶんと、荒っぽいお祭りあるものだ、と。
子供は夕方から外にでてはならぬなど、まるで鬼でも来るかのような警戒態勢である。


「ああ、すまぬ、すまぬ。驚かせてしまったな」

村人たちが頭を下げながら帰った後、楓はりんの表情を見てそう言った。
「心配せんでもよいぞ、りん」
楓はどっこらせ、とつぶやきながら土間から板の間に腰を下ろす。
「何のお祭りなんですか?喧嘩だなんて・・・」
りんの不安そうな表情を見ながら、楓はどこまで説明したらよいものか、と思いを巡らせた。
人里で暮らす以上、いずれは知らねばならぬことでもあるが、いくら何でも今のりんにはまだ早いだろう、と老巫女は思う。
楓は、ゆっくり言葉を選んでりんに説明する。

「そうじゃな、昨年は奈落の災厄もあってそれどころではなかったのだがな。 今年は若い者たちが集まって祝言の相手探しを
 する祭をしよう、ということなのじゃ」

「祝言の相手探し・・・」

りんは、ぽかんとした。
祝言の相手探しをする祭りがあるなど、思いもよらなかったのである。

以前住んでいた村では、物心が付いた頃に両親を失った。
村の中で、お情けで養われていた口の利けない娘には、誰かが何かを教えてくれるということがなかった。
そもそも、不思議に思うことがあったとしても、話せないりんが誰かに聞くことは不可能である。

「夫婦(めおと)は、どうやって夫婦になったのか」

幼いりんは、考えたことすらなかった。
りんが唯一知っている夫婦の出会いは、両親である。
りんの両親は幼なじみで、小さな頃からお互いに好きだったのだと、昔聞いたことがあった。

「おっかあが小さな頃はね、おっとうがすぐ近くに住んでたの。 おっとうは小さい頃から優しくてね、おっかあが重い荷物を
 持ってたら、必ずとんできて、手伝ってくれるんだ。  おっかあは、おっとうのことが小さな頃から大好きだったよ」
「おっかあの小さな頃は、今のりんにそりゃあそっくりだったんだぞ。 いつも元気で可愛くてなあ、おっとうはおっかあと
 一緒になるんだって、小さな頃からずっと思ってたんだよ」

とても、仲のいい夫婦だったと、りんは今でも思う。
にいちゃんはおっとうにそっくりで、りんはおっかあにそっくりだって、誰もが口を揃えて言った。
そう言われたときの両親の幸せそうな笑顔は、幼いりんにも暖かい記憶として残っている。

夫婦になったのは、お互い、ずっと好きだったから。 これ以上ない、簡潔な理由。
りんには、それ以外に夫婦になる理由があることすら思いつきもしなかった。

考えてみれば、りんの両親の出会いはきっととても幸せな出会いなのだろう。
こちらが好きでも向こうはそうじゃないことだって、十分ある。 そんな時は、あきらめるしかないんだろうか。
そして、他に好きな人を探すのだろうか。 このお祭りは、その為にあるお祭りなのかもしれない。

難しい顔をして考え込んでしまったりんを見て、楓は笑った。

「りん、どうしたのだ、難しい顔をして」

りんは楓を見上げた。 妖怪と共に旅をしていた自分を預かってくれた、この巫女は誰とも夫婦になっていない。
それは、どうしてなんだろう。

「楓さまは、巫女さまだから、夫婦にならなかったの・・・?」

りんは、遠慮がちに聞く。 なんとなく、楓の人生に踏み込む気がして、気が引けた。
楓は、穏やかに微笑んでりんの肩をぽんぽんとたたいた。

「そうだな、今晩はゆっくりその話をするとしようかね。先に、夕飯を作ってしまおう。 手伝ってくれるかい、りん」

りんは暖かい楓の手の感覚に、今、自分がこの村では一人ではないのだ、と実感する。

「・・・はい」

りんは嬉しそうに微笑んだ。
人里での暮らしに戻って一年がたつが、未だに「手伝ってほしい」という言葉は、りんにとって嬉しい言葉だった。

自分を楓に預けると決めた大妖の心を思う。
顔にも言葉にも出さない、だけれども誰よりもりんに優しい、大妖の心を。


きっと、人里でりんが孤独にならないようにと、考えてくれたに違いなかった。

 

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