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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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ありふれたものの中に、それはありました<11>








ありふれたものの中に、それはありました<11>



 

 

拍手[205回]




「皆さまには、どれだけお礼を申し上げても足りません・・・!」


深々と頭を下げる篠丸に対して、犬夜叉はからかうように言う。
「もう、妖刀はいらねーのか?」

篠丸は赤くなって刀鍛冶の綱丸の方を向き直った。
「綱丸殿、そなたには毎晩毎晩、無理を言ってすまなかった。
 確かに、琥珀殿の言われる通り、私の体つきでは刀を扱うのはまだ無理じゃ。
 もう少し、父上と母上について、戦い方を学ぼうと思う」

綱丸は頭をかきながら、笑顔で言った。
「いやー、お父ちゃんとお母ちゃん、元気になって良かったなあ、ほんまに良かった。
 毎晩、小さなお狐さんが色んなもんに化けてくるの、
 最近では少し楽しみやったんやで。
 もう来はらへんと思うと、寂しいくらいや。
 せやけど、ほんまにびっくりしたわ・・・。
 あのボロボロやったお狐さんが元に戻るやなんて・・・」

皆、和やかな表情で篠丸と神狐を見つめた。
神狐は、透き通るような体ではなく、ちゃんとそこに存在していた。
輝くような毛並みを誇るように。
神狐の両親が、篠丸に頬ずりをしながら共に口を開いた。

「・・・我らは、あのままでは数日を待たずして消える運命だった」
「・・・それも我らの定めと、受け入れてもいた」
「・・・だが、小さい我が子のことだけが気がかりだったのだ」
「・・・感謝申し上げる、人の子よ」

二匹の神狐が皆にその頭を垂れる。
その下で、小さな篠丸は嬉しそうに両親を見上げていた。

弥勒は、神狐の石像を眺めて言った。
「いやーしかし、ああも見事に石像が元に戻るなど、にわかには信じられませんね」
皆も、弥勒の言葉に頷いた。
社の前にたたずむ神狐の石像は欠けた前足も元に戻り、
まるで石から掘り出されたその時のような美しい姿を保っていた。
「天生牙って、本当にすごいんだね」
珊瑚も感心したように言う。

 


・・・あの時。

殺生丸がすらりと天生牙を抜き神狐へ向けて一振りすると、
あたりにはまばゆいばかりの光が満ちた。
皆が、そのまぶしさに思わず目を閉じる。

「おお・・・よきかな、よきかな」

稲荷神の声が聞こえたと思うと、お社にいた稲荷神さまの姿は煙のようにかき消え、
きらきらと光る光の粉になって、社から周囲に飛んで行ってしまった。

「・・・おいっ!!石像が元に戻っておるぞ!!」

七宝の言葉に、皆が石像と神狐を見て、息をのんだ。
石像はまるで壊れていたことが嘘のように元の姿に戻り、
篠丸のそばにいる神狐は、銀色に輝く美しい毛並みと、その姿を取り戻していた。

「ち、父上、母上・・・」

・・・篠丸の震える声は、やがて大きな泣き声に変わった。


りんは、光の中、ふわりと地上に降ろされて、殺生丸の白尾が体から離れるのを感じた。
目を開けると、そこにはすでに天生牙を鞘に収めた殺生丸が、背を向けて立っていた。
流れ落ちる銀色の髪。
・・・大好きな人の、背中。

りんは思わず駆け寄って、その後ろ姿にぎゅうっと抱きついた。
・・・といっても、抱きついたのは殺生丸の脚だが。

「・・・ありがとう、殺生丸さま・・・!」

りんが殺生丸の袴に顔を埋めながらそう言うと、空から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「置いていかないで下さいませ~~~っっ!!殺生丸さま~~~~っっ!!」

りんは、空を見上げて更に笑顔になった。
「あっ!邪見さまだー!!」
青い空には、阿吽に乗った邪見が殺生丸を追って飛んできていた。


「ああ、よかった、追いついた・・・」
邪見は社に降り立つなり、りんに小言をこぼし始めた。

「こりゃりんっ!
 お前なあ、旅にでるなら前もってそう言わんか!
 殺生丸様はすぐにお前が旅に出たことをお察しになられたようじゃが、
 ワシなどはまったく見当もつかんで殺生丸様を追うのに難儀したわい!!」

りんは、ぷぅ、と頬を膨らまして可愛い声で邪見に抗議する。
「えー!でも、旅に出るの、急に決まったんだもん。
 邪見さまも殺生丸さまも、どこにいるか分かんないし、
 りんはどうやって伝えたらいいの?」
「う、うぐっっ・・・!」
痛いところを突かれて、邪見は口ごもる。
確かに、りんから殺生丸や邪見に連絡をとるすべはない。
「ぐ・・・ま、まあ、よいっっ!
 全く、その着物に守られておらなんだら、何が起きてもおかしくなかったんじゃぞ!
 お前の村はなにやら怪しげな祭りをしておるし、
 急に天生牙が騒ぎだして殺生丸さまは慌てられたように
 光の早さで飛んで行かれるし・・・・・・ぐえーーーーーっ」

何が主の癇に触れたのか、殺生丸の白尾に思いっきりはじかれた邪見は
あっと言う間に、森の向こうに飛んでいってしまった。
・・・足蹴ではないところに、従者への分かりにくい配慮があるのだが、
それに気づいたのはりんだけである。

「殺生丸さま・・・」
りんは、殺生丸を見上げる。

「あの、りんが貰ったこの着物、本当に殺生丸さまのおっとうの毛で作ったものなの・・・?
 りんなんかが着ても・・・本当にいいの?」

殺生丸は怪訝な顔をする。
何を今更、と思ったのかもしれない。

だが、りんの脳裏には、先ほど町で出会った布地屋の女将の言葉があった。
「その染め物は限られた高貴な身分の人たちしか、手に入れられないのですよ」と。
りんが着ていても、本当にいいのだろうか。

殺生丸は、ぽす、とりんの頭に手を置く。

「その着物は、妖に織らせた魔除けの着物だ。
 身に付けているだけで結界の役割を果たし、お前の身を守る。
 人間や並の妖にはそれが父上の毛で織られたことすら分からぬよう、
 強い呪(しゅ)をかけている。
 差し障りはないはずだ」

りんは、はっとする。
そういえば、人間とは比べものにならないほど鼻の良い犬夜叉ですら、
この着物に父親の毛が使われていることに気がつかなかった。
巫女の楓も、この着物の特異さには、気がついていなかったように思う。

「・・・それに気づくのは、父上と同等の妖のみ」

りんは、お狐様と篠丸を見る。
「じゃあ、お狐さまは・・・」
「あれは、父上を直接見知っている上に、神籍を持つ神狐だ。 
 おまえが触れたことで、気がついたのだろう。 
 神狐がその着物に触れたと同時に、天生牙が騒ぎだした」
殺生丸は、片手を天生牙にかけて、そう言った。

りんは、殺生丸の袴をきゅっと握る。

「殺生丸さま、りんのこと心配してきてくれたの・・・?」

殺生丸は、しばらくりんのことを見つめていたが、ぽそりと呟いた。

「・・・無事ならば、よい」

りんは、再びぎゅっと殺生丸に抱きつく。
(やっぱり、りんのこと、心配して来てくれたんだ・・・)
そう思うと、嬉しくて嬉しくて、りんは涙がでそうになる。

「・・・たくさんあるの。殺生丸さまに、お話ししたいこと」

袴に顔を押しつけていたから、くぐもった声になったが、りんは続けた。

「たくさん、たくさん、あるの・・・」

そんなりんの頭を、殺生丸は優しく撫でる。
りんは、目尻に涙をにじませて殺生丸を見上げて言った。

「・・・でも、次の満月の日に会えるまで、とっておくね」

一生懸命、笑う。

「・・・そしたら、次に会ったときの楽しみが増えるでしょ?」

「・・・・・・」

殺生丸は無言だったが、りんには、殺生丸の目が、微かにほほえんだように見えた。

「来てくれて、本当にありがとう、殺生丸さま」

りんがえへへ、と照れ笑いをしながら殺生丸から体を離すと、
神狐が近づいてきて頭を垂れた。

「狗神のご子息よ、感謝申し上げる」
「これで、我らはあと千年は稲荷神さまにお仕えすることができる」

殺生丸は神狐をちらりと見ると、興味がなさそうに言う。

「・・・救ったのは私ではない。刀に宿っていた父の思念だ」

そう言うと、そばに控えていた阿吽の上に跨り、
その手綱を引いて空へふわりと飛び立った。

社に満ちていた峻烈な妖気の渦が空へと流れていくと、
犬夜叉一行は、極度の緊張から解放されて思わず息をついた。


・・・りんは一人、空を駆ける庇護者の姿を、見えなくなるまで見つめていた。

 

 


その後、何度も何度も頭を下げる篠丸と神狐に別れを告げ、
一行は近くの茶屋に寄って茶を頼み、
女将の持たせてくれたおむすびを皆で分けあって食べることにした。
何だか短い時間にたくさんのことがあって、気が付いたら皆、腹ペコだった。

「・・・そうか、どうして殺生丸がここにきたのかと不思議だったのですが、
 あのりんの着物が媒体となって、天生牙を呼び寄せたと、そういうことだったのですねえ」
弥勒が納得したようにそういうと、
食べ掛けのおむすびを持ったまま、珊瑚が不思議そうに尋ねた。
「同じ、犬夜叉の父上の体から作り出されたものだからなのかな?」
弥勒は苦笑する。
「いえ、私たち人間には、詳しいことは分かりません。
 ただ、天生牙には自らの意思があると、刀々斎さまは仰っておられました。
 天生牙がりんの身の上を案じて、殺生丸をここへ呼び出したことは間違いないでしょうね」
七宝は感心したように呟いた。
「天生牙は、まるで、生きているみたいじゃのう!」
琥珀も、おむすびを持ったまま頷く。
「俺も外に修行に出てよく分かったけど、殺生丸さまって、やっぱり桁違いだ。
 あの天生牙が自ら選んだっていうのが、よく分かる気がする。
 りんのあの着物も、やっぱり魔除けが施してあったんだなぁ。
 さすが殺生丸さまというか、なんというか・・・」
早々に自分の分を食べ終わった犬夜叉が、ぶすっとして楓に言う。
「・・・殺生丸の野郎が、誰かを助けるために天生牙を使うとは思わなかったぜ。
 おまけに、俺には、りんの着物が親父の形見なんて、全然気がつかせねぇでやんの」
楓は苦笑して、おむすびを食べながら空を見上げるりんを、目を細めてみた。
殺生丸を動かしたのは、おそらくあの小さな娘の存在だろう、と楓は思う。

殺生丸は生粋の妖怪だ。
人間のように情に流される生き物ではないはずだ。
だが今回、殺生丸は目の前に広がる光景と護るべき少女の願いに動かされて、
天生牙を振るったように、楓には見えた。
尊敬していたという父と神狐との繋がりも、一役買ったのかもしれないが。
だがきっと、最後のひと押しは、
りんの気持ちを殺生丸なりに思いやった結果なのだろう。

(案外、ああ見えて分かりやすい性質なのやもしれぬな)
そう、楓は思う。
大切なものを守るためには、迷いや躊躇などないのだろう。
旅籠の女将の琵琶の妖の話を思い出す。
妖怪は、人間などよりよほど、純粋なのかもしれない。

りんは楓の視線に気がつくと、空を見上げていたことに照れるように笑った。
楓のそばで疲れきったように茶をすすっている綱丸と山吹に向かって、
「良かったですね、お狐さまが元に戻って」
そう言って、りんはにっこり笑う。

そんなりんに、刀鍛冶の綱丸はこわごわと聞いた。
「・・・お嬢ちゃん、神さんやらお狐さんやら妖怪やら、
 あんなにいっぺんに目にして、恐ろしゅうなかったんか?」
りんは目をぱちくりとして、不思議そうに、
「怖くなんてないよ?」
という。
父親が琵琶の妖という山吹も、
殺生丸のような大妖を目にしたのは初めてだったらしく、
どっと疲れてしまったようだ。
綱丸とともに、ぐったりとしている。

楓は、皆を見渡しながら言った。
「まあ、何にせよ、これで一件落着じゃな」
弥勒が残念そうに言う。
「この町で、我らの功名は成りませんでしたねえ・・・。
 結局、事を解決したのは殺生丸ですし。
 残念ですなあ・・・」
弥勒の言葉に、山吹と綱丸がぶんぶんと顔を振った。
「何をおっしゃいます!
 退治屋として、これだけのお知り合いがいらっしゃれば怖いものなどありますまい!」
「ほんまや!
 私、もし妖怪に困ってるお人を見かけたら、絶対にあなたがたをご紹介しますわ!」

そんな二人に、弥勒は苦笑する。
「・・・今回、殺生丸が助けてくれたのは、奇跡に近いんですけどね」 
「そーでぇ、そーでぇ!
 才能を出し惜しみしやがってよー。
 たまにはあいつも人助けしやがれってんだ」
犬夜叉も、ぶすっとしたまま相槌を打った。

そんな二人のことも、りんはにこにこしながら見ている。
りんは、『殺生丸さまは優しい』と信じている。
実際は、『りんだけに優しい』のだが、そこに気づいてはいない。
そんなりんの表情に、琥珀は苦笑した。
(相変わらず、だなあ・・・)

楓はよっこらせ、と背を伸ばして立ち上がる。

「さてさて、日が暮れる前に旅籠へ戻ろうかの。
 何か、市で美味しい食材を買って帰って、女将に料理して貰おうではないか。
 今晩は旨い物と温泉で疲れを癒して、明日は村へ戻ろう。
 どうせ、いつものごとくあの歌垣の祭で怪我人がでておるのだから、
 帰ったらさっそく薬を煎じねばならんぞ、りん」
りんはにっこり笑って、
「はいっ」
と、勢いよく返事をした。
仕事が待っていると思うと、しゃきん、と背が伸びる気がする。

「あーっ!!ええのう、ええのう!!
 オラたちも一緒に温泉に行きたいのう、なあ、琥珀?!」
七宝がぴょんぴょん飛び跳ねながら言い、琥珀も頷いた。
「そうですね、ご迷惑でなかったら・・・」
山吹は嬉しそうに、
「お任せください!うちの旅籠は広うございます」
という。

「それでは、私がよい食材の店をご紹介いたしましょ!」
綱丸がそういうと、皆が元気よく立ち上がった。

「わあ、何を売ってるか、楽しみですね!」
りんが嬉しそうに言い、珊瑚もおなかをさする。
「よーし、赤子のためにも、滋養をとらなくっちゃ!!」
「楽しみじゃーーっ」
七宝がはしゃぎ、雲母がみゅーっと声をあげる。

楽しそうで風変わりな一行は、賑やかな市の中へと歩いて行った。

 

 

・・・・こうして、りんの人里での初めての旅は、
         とてもとても、思い出深いものになった。

 


・・・ああ、そうそう。

・・・この後、弥勒たちへ仕事の依頼が爆発的に増えたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 


エピローグ

 

 

 

 

 

 

・・・たくさん、たくさんあるの。

殺生丸さまに、お話したいことが、とってもたくさん。


りん、とっても幸せなの。
・・・本当に、本当に、幸せなの。

 

殺生丸さまが、満月の度に、りんにくれるもの。

滑らかな櫛、
丸くてぴかぴかの鏡、
髪結いの組紐、
季節ごとの着物、
たくさんの帯・・・。

りんの周りには、殺生丸さまから貰ったものが、たくさん。


・・・ねえ、殺生丸さま?

・・・全部に、魔除けが施してあったんでしょう・・・?


りんの周りにありふれたものの中で、りんを護ってくれていたんでしょう・・・?

 

ねえ、殺生丸さま・・・

どうして、そんなに、優しいの・・・?

りん、どうやってお返ししたらいいの・・・?

 

ねえ、殺生丸さま・・・

 

りんも、殺生丸さまを、幸せに・・・できる・・・?

 

 

 

 

 

 

ありふれたものの中に、それはありました・・・終

 

 

 

 

 

 

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