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あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

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それでも信じつづける、私は愚かですか



ぜひとも、BGMに。



 





それでも信じつづける、私は愚かですか



拍手[112回]





―――水無月。


突然の大雨に、りんとあやめは大きな木の下に逃げ込んだ。


収穫した野菜はずっしりと重くて、雨の中かごを抱えて走るのはさすがに無理だった。

今日は、あやめの両親に頼まれて、りんは畑に収穫を手伝いに来ていたが、
収穫を終えて家へ帰る途中、大雨に降られたのだ。

りんはため息をついて、灰色の空を見上げる。
雨は、しばらくやみそうになかった。


あやめは、りんの村に住む同じ年頃の女の子だ。
大きなくりくりとした瞳の印象的な女の子で、来月隣村に嫁に行くことが決まっている。

五日前、村長が嫁入りの話を持ってきて、両親がその話を受けた、と聞いている。
相手は隣村にたくさんの田んぼを持った大地主さまで、
その息子があやめを見て、一目惚れしてしまったのだそうだ。

あやめの家は、決して裕福ではない。
上に兄がいて、更に幼い兄妹が、あやめの下に5人もいる。
一番下の坊やは、やっと立ち上がれるようになったばかり。

この話は、降ってわいたような幸運だったのだ、という。
初めてその話を聞いた時、りんは何と言っていいのか、分からなかった。

・・・あやめには、好きな人がいたことを、知っていたから。

 

あやめが好きだったひと・・・。

その恋は、叶わぬ恋だった。
たった一人、りんにだけ、こっそり打ち明けてくれた。
打ち明けられても、りんにも、どうしようもない相手だった。

「・・・別に、いいの。勝手に思うだけなら、あたしの勝手でしょ?」

少し、拗ねたようにあやめはその時、小川の流れを見ながらりんに言った。

「だから、黙っててね、りんちゃん」

そういって、あやめは器用に笹舟を作って、小川に流した。
笹舟は、色んなところにひっかかりながら、少しづつ前に進んだ。
二人で笹舟を追いながら、色んなことを話した。

「あたし、物知りな人が好きなの。自分の知らないことを、たくさん知ってる人」
「・・・そうなんだぁ」
「りんちゃんは?どんな男の人が好きなの?」
「あ・・・あたし?」
「そう。好きな人、いないの?」
「あたしは・・・・」

殺生丸、とは言えなかった。
どうしてだか、自分でも分からなかった。

「・・・優しいひと、かな・・・」

言ってみて、殺生丸のことだ、と思うと、りんは思わずくすりと笑った。

「あ!りんちゃん、やっぱり好きな人、いるんでしょ?」
「・・・好き・・・なのかなぁ・・・」

りんは、困ったようにあやめを見た。

「・・・まさか、あの」
「・・・・・・」

あやめの言わんとすることは、りんにも分かった。
・・・満月の日に、妖怪がりんを訪ねてくることは村の者なら誰でも知っている。

その強さは比類なく、妖しいまでに美しい妖怪―――殺生丸。

村の者も月に一度のその訪れをやんわりと受け入れている。
たまに手土産にもってくる大イノシシや薬草など、
村の者も大いにその恩恵にあずかっている。

・・・だが、その存在を受け入れているかというとそれはまた別のことだ。
妖怪に対する恐怖は、そうそう簡単に人の心から消えるものではない。


「・・・別に、いいんじゃないの?」
「・・・え?」

あやめは、小さな白い花を摘むと、それを小川に浮かべた。
くるくると回りながら、花は流されていく。

「想うのは、自由だもの」
「・・・」

あやめは流されていく白い花を見ながら、もう一度言った。

「・・・想うだけなら、自由だもの」

それは、自分に言い聞かせているようで、
りんはあやめに何と言ったらいいか分からなかった。

「・・・だから、黙っててね、りんちゃん」
「・・・うん、言わない・・・」

そう言って、ふたり、指きりをしたのだった―――・・・。

 

 

通り雨は思ったよりも激しくて、二人は大きな楠の根元から動けずにいた。
二人の思いは、どうしても、あの日の指きりに還っていく。

「夢ばっかりみてちゃ、だめなのよね・・・」

あやめはりんに、突然そう言った。

「え・・・?」

戸惑うりんに、あやめは大人びた表情で、笑う。

「運がいいって、たくさんの人に言われたわ。
 これから、たくさんの使用人に囲まれて暮らすんだって・・・」

「あやめちゃん・・・」

「きっと、そうなのよね。
 うちは貧乏だったし、それでも幸せだったけど・・・」

あやめは、木の根元に生えていたスミレの花を摘んで、指先でくるくると回した。

「・・・でも、もう夢は見ていられないんだね」

あやめの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「・・・字、教えてもらうの、嬉しかったのになあ」
「・・・・あやめちゃん・・・」

りんも、思わず涙ぐんでしまう。

・・・どうして、人の心とは、すべてうまくいかないんだろう。
誰もが、好きな人と幸せになれたらいいのに、どうして、そうはならないんだろう。

「こんなこと、りんちゃんに言っても、困るだけだったのにね。
 ごめんね、いつも聞いてくれて・・・・ありがとう」

「・・・ううん・・・何にも、出来なくて、ごめんね」

りんは泣きそうになって、下を向いた。
りんは、あやめの気持ちを知ってもどうしようもなかった。
・・・何も、出来なかった。

「いいんだ、りんちゃんが聞いてくれただけでも」

あやめは、泣き笑いの顔でりんを見た。

「だって、あたしの想いが、存在したっていう証拠だもの。
 ・・・誰も知らないままより、そのほうが救われる気がする」

「・・・あやめちゃん・・・」


遠くの空が、微かに明るくなってきていた。
激しかった雨は、やがて涙とともにあがっていく。

「・・・帰ろうか」
あやめは、遠い空を見ながら言った。

「・・・うん」

 

りんは、ひとつの決意をしていた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

夕焼けに照らされた丘の上、りんは弥勒に頭を下げていた。

「・・・はあ、数珠を」

「じゅず~?」
「りん~?」

可愛い双子が、覚えたての言葉を繰り返す。
りんは深々と頭を下げた。

「~~~~どうか、お願いします!!!」

「いえ、別に構いませんよ。今すぐ作ってあげましょう」

りんの顔は、弥勒の言葉を受けて、ぱあっと明るくなる。
そんな表情をみて、弥勒はくすりと笑った。

(こんな顔を毎日目の前で見ていたら・・・あの兄上が変わったのも分からんでもないな)

弥勒は、ぷつりと自分の長い数珠の端を糸切り歯で切ると、
小さな一輪ができるほど取り出し、器用にまたその端を結んで輪にした。

「はい、出来上がり。こんな簡単なもので良いのですか?」
弥勒は、双子をあやしながら、りんに小さな輪の数珠を手渡した。

「十分です!ありがとうございました!!」

りんは、勢いよくペコリと頭を下げた。

「あの娘の嫁入り道具にしては、ちと古びているような気がしますがねえ・・・」

首をかしげてそういう弥勒に、りんは慌てて言う。

「え、えと、でもほら、新しい物より弥勒様の持っているものの方が、仏様に近い気がします!」
「そうですかねえ・・・」
「かねえ~?」
「ねえ~?」

「あやめちゃん、弥勒様に字を教えてもらうの、すごく嬉しかったんですって。
 だから、きっと喜ぶと思います」

りんがにっこりと笑ってそう言うと、つられて弥勒も笑ってしまった。

「・・・そうですか」

りんはもう一度ぺこりと頭を下げると、その足であやめの家に向かった。


・・・明日が、嫁入りの日だ。

(・・・これくらいしか、できないけど・・・)

りんは、弥勒から貰った数珠を握りしめて、坂を下った。

 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 


あやめの家に着いた頃には、夕陽も落ちて薄闇が広がっていた。
りんは、小走りで来たために上がってしまった息を整える。


「・・・・あやめちゃん」

りんが小さな声で呼ぶと、あやめは驚いたように家から出てきた。

「どうしたの、こんな暗くなってからくるなんて」
「・・・ごめんね、遅くに」

りんは、思わず謝った。
多分、最後の家族での食事の最中だったに違いない。

「・・・これ、せめて、思い出になればと思って、貰ってきたの」

シャラ、と音を立てて手渡されたそれを見ると、あやめは目を見張った。

「・・・・りんちゃん・・・これ、弥勒さまの・・・」
「・・・迷惑だった・・・?」

りんが聞くと、あやめは、みるみるうちに目に涙を浮かべてりんに抱きついた。
りんの肩に、ぽたぽたと、温かい涙が落ちて染みていく。
りんも、思わず涙がこぼれた。

「あやめちゃん・・・幸せになってね」
「りんちゃん・・・ありがとう・・・」

「あやめちゃん・・・あのね、内緒だよ?」

りんは、あやめに、ささやく。

・・・初めて、口にする、言葉を。

 

 


・・・・あたし、殺生丸さまのことが、好きなの。
ずっと、ずっと、昔から、大好きなの。
 
いつか、また一緒に旅に出るのが、夢なの。
また一緒に旅に出れるって、ずっと、ずっと、・・・信じてるの。

人里で暮らしてみて、それがどんなに夢みたいなことかって、よく分かった。
・・・妖怪と人間とは、生きる世界も流れる時間も違うもの。
だから、好きって認めるのが、ずっと怖かったの。

だけど、たとえ叶わない想いでも、信じることにする。

・・・・あたしは、殺生丸さまとなら幸せになれるって、信じることにする。

 

 

「・・・りんちゃん・・・」

あやめは驚いたように、りんの顔をまじまじとみる。
りんは、えへへ、と泣きながら笑った。

「あやめちゃん・・・二人だけの内緒ね?」

りんが右手の小指を差し出すと、あやめはまたじわりと涙を浮かべて、小指を差し出した。

「・・・ゆーびきり、げーんまん」

 


ぽろぽろ、ぽろぽろ、二人は泣いた。

二人が少女でいられる、最後の時間だった。

 

 

 

・・・次の日、馬に揺られながら、

あやめは、その名に相応しい、美しい菖蒲色の着物を身に纏い、紅をさし、花嫁となった。

 

 

馬に揺られた花嫁が見えなくなるまで見送ると、りんは、青い空を仰いだ。

愛しい人のいる、広い広い、水無月の空を。


・・・少しだけ、大人に近づいた気がした。
 

 

 

 

 

 

 

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