あやかしとむすめ

殺りん話を、とりとめもなく・・・  こちらは『犬夜叉』に登場する 殺生丸とりんを扱う非公式FANサイトです。

それでも信じつづける、私は愚かですか



ぜひとも、BGMに。



 





それでも信じつづける、私は愚かですか







―――水無月。


突然の大雨に、りんとあやめは大きな木の下に逃げ込んだ。


収穫した野菜はずっしりと重くて、雨の中かごを抱えて走るのはさすがに無理だった。

今日は、あやめの両親に頼まれて、りんは畑に収穫を手伝いに来ていたが、
収穫を終えて家へ帰る途中、大雨に降られたのだ。

りんはため息をついて、灰色の空を見上げる。
雨は、しばらくやみそうになかった。


あやめは、りんの村に住む同じ年頃の女の子だ。
大きなくりくりとした瞳の印象的な女の子で、来月隣村に嫁に行くことが決まっている。

五日前、村長が嫁入りの話を持ってきて、両親がその話を受けた、と聞いている。
相手は隣村にたくさんの田んぼを持った大地主さまで、
その息子があやめを見て、一目惚れしてしまったのだそうだ。

あやめの家は、決して裕福ではない。
上に兄がいて、更に幼い兄妹が、あやめの下に5人もいる。
一番下の坊やは、やっと立ち上がれるようになったばかり。

この話は、降ってわいたような幸運だったのだ、という。
初めてその話を聞いた時、りんは何と言っていいのか、分からなかった。

・・・あやめには、好きな人がいたことを、知っていたから。

 

あやめが好きだったひと・・・。

その恋は、叶わぬ恋だった。
たった一人、りんにだけ、こっそり打ち明けてくれた。
打ち明けられても、りんにも、どうしようもない相手だった。

「・・・別に、いいの。勝手に思うだけなら、あたしの勝手でしょ?」

少し、拗ねたようにあやめはその時、小川の流れを見ながらりんに言った。

「だから、黙っててね、りんちゃん」

そういって、あやめは器用に笹舟を作って、小川に流した。
笹舟は、色んなところにひっかかりながら、少しづつ前に進んだ。
二人で笹舟を追いながら、色んなことを話した。

「あたし、物知りな人が好きなの。自分の知らないことを、たくさん知ってる人」
「・・・そうなんだぁ」
「りんちゃんは?どんな男の人が好きなの?」
「あ・・・あたし?」
「そう。好きな人、いないの?」
「あたしは・・・・」

殺生丸、とは言えなかった。
どうしてだか、自分でも分からなかった。

「・・・優しいひと、かな・・・」

言ってみて、殺生丸のことだ、と思うと、りんは思わずくすりと笑った。

「あ!りんちゃん、やっぱり好きな人、いるんでしょ?」
「・・・好き・・・なのかなぁ・・・」

りんは、困ったようにあやめを見た。

「・・・まさか、あの」
「・・・・・・」

あやめの言わんとすることは、りんにも分かった。
・・・満月の日に、妖怪がりんを訪ねてくることは村の者なら誰でも知っている。

その強さは比類なく、妖しいまでに美しい妖怪―――殺生丸。

村の者も月に一度のその訪れをやんわりと受け入れている。
たまに手土産にもってくる大イノシシや薬草など、
村の者も大いにその恩恵にあずかっている。

・・・だが、その存在を受け入れているかというとそれはまた別のことだ。
妖怪に対する恐怖は、そうそう簡単に人の心から消えるものではない。


「・・・別に、いいんじゃないの?」
「・・・え?」

あやめは、小さな白い花を摘むと、それを小川に浮かべた。
くるくると回りながら、花は流されていく。

「想うのは、自由だもの」
「・・・」

あやめは流されていく白い花を見ながら、もう一度言った。

「・・・想うだけなら、自由だもの」

それは、自分に言い聞かせているようで、
りんはあやめに何と言ったらいいか分からなかった。

「・・・だから、黙っててね、りんちゃん」
「・・・うん、言わない・・・」

そう言って、ふたり、指きりをしたのだった―――・・・。

 

 

通り雨は思ったよりも激しくて、二人は大きな楠の根元から動けずにいた。
二人の思いは、どうしても、あの日の指きりに還っていく。

「夢ばっかりみてちゃ、だめなのよね・・・」

あやめはりんに、突然そう言った。

「え・・・?」

戸惑うりんに、あやめは大人びた表情で、笑う。

「運がいいって、たくさんの人に言われたわ。
 これから、たくさんの使用人に囲まれて暮らすんだって・・・」

「あやめちゃん・・・」

「きっと、そうなのよね。
 うちは貧乏だったし、それでも幸せだったけど・・・」

あやめは、木の根元に生えていたスミレの花を摘んで、指先でくるくると回した。

「・・・でも、もう夢は見ていられないんだね」

あやめの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「・・・字、教えてもらうの、嬉しかったのになあ」
「・・・・あやめちゃん・・・」

りんも、思わず涙ぐんでしまう。

・・・どうして、人の心とは、すべてうまくいかないんだろう。
誰もが、好きな人と幸せになれたらいいのに、どうして、そうはならないんだろう。

「こんなこと、りんちゃんに言っても、困るだけだったのにね。
 ごめんね、いつも聞いてくれて・・・・ありがとう」

「・・・ううん・・・何にも、出来なくて、ごめんね」

りんは泣きそうになって、下を向いた。
りんは、あやめの気持ちを知ってもどうしようもなかった。
・・・何も、出来なかった。

「いいんだ、りんちゃんが聞いてくれただけでも」

あやめは、泣き笑いの顔でりんを見た。

「だって、あたしの想いが、存在したっていう証拠だもの。
 ・・・誰も知らないままより、そのほうが救われる気がする」

「・・・あやめちゃん・・・」


遠くの空が、微かに明るくなってきていた。
激しかった雨は、やがて涙とともにあがっていく。

「・・・帰ろうか」
あやめは、遠い空を見ながら言った。

「・・・うん」

 

りんは、ひとつの決意をしていた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

夕焼けに照らされた丘の上、りんは弥勒に頭を下げていた。

「・・・はあ、数珠を」

「じゅず~?」
「りん~?」

可愛い双子が、覚えたての言葉を繰り返す。
りんは深々と頭を下げた。

「~~~~どうか、お願いします!!!」

「いえ、別に構いませんよ。今すぐ作ってあげましょう」

りんの顔は、弥勒の言葉を受けて、ぱあっと明るくなる。
そんな表情をみて、弥勒はくすりと笑った。

(こんな顔を毎日目の前で見ていたら・・・あの兄上が変わったのも分からんでもないな)

弥勒は、ぷつりと自分の長い数珠の端を糸切り歯で切ると、
小さな一輪ができるほど取り出し、器用にまたその端を結んで輪にした。

「はい、出来上がり。こんな簡単なもので良いのですか?」
弥勒は、双子をあやしながら、りんに小さな輪の数珠を手渡した。

「十分です!ありがとうございました!!」

りんは、勢いよくペコリと頭を下げた。

「あの娘の嫁入り道具にしては、ちと古びているような気がしますがねえ・・・」

首をかしげてそういう弥勒に、りんは慌てて言う。

「え、えと、でもほら、新しい物より弥勒様の持っているものの方が、仏様に近い気がします!」
「そうですかねえ・・・」
「かねえ~?」
「ねえ~?」

「あやめちゃん、弥勒様に字を教えてもらうの、すごく嬉しかったんですって。
 だから、きっと喜ぶと思います」

りんがにっこりと笑ってそう言うと、つられて弥勒も笑ってしまった。

「・・・そうですか」

りんはもう一度ぺこりと頭を下げると、その足であやめの家に向かった。


・・・明日が、嫁入りの日だ。

(・・・これくらいしか、できないけど・・・)

りんは、弥勒から貰った数珠を握りしめて、坂を下った。

 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 


あやめの家に着いた頃には、夕陽も落ちて薄闇が広がっていた。
りんは、小走りで来たために上がってしまった息を整える。


「・・・・あやめちゃん」

りんが小さな声で呼ぶと、あやめは驚いたように家から出てきた。

「どうしたの、こんな暗くなってからくるなんて」
「・・・ごめんね、遅くに」

りんは、思わず謝った。
多分、最後の家族での食事の最中だったに違いない。

「・・・これ、せめて、思い出になればと思って、貰ってきたの」

シャラ、と音を立てて手渡されたそれを見ると、あやめは目を見張った。

「・・・・りんちゃん・・・これ、弥勒さまの・・・」
「・・・迷惑だった・・・?」

りんが聞くと、あやめは、みるみるうちに目に涙を浮かべてりんに抱きついた。
りんの肩に、ぽたぽたと、温かい涙が落ちて染みていく。
りんも、思わず涙がこぼれた。

「あやめちゃん・・・幸せになってね」
「りんちゃん・・・ありがとう・・・」

「あやめちゃん・・・あのね、内緒だよ?」

りんは、あやめに、ささやく。

・・・初めて、口にする、言葉を。

 

 


・・・・あたし、殺生丸さまのことが、好きなの。
ずっと、ずっと、昔から、大好きなの。
 
いつか、また一緒に旅に出るのが、夢なの。
また一緒に旅に出れるって、ずっと、ずっと、・・・信じてるの。

人里で暮らしてみて、それがどんなに夢みたいなことかって、よく分かった。
・・・妖怪と人間とは、生きる世界も流れる時間も違うもの。
だから、好きって認めるのが、ずっと怖かったの。

だけど、たとえ叶わない想いでも、信じることにする。

・・・・あたしは、殺生丸さまとなら幸せになれるって、信じることにする。

 

 

「・・・りんちゃん・・・」

あやめは驚いたように、りんの顔をまじまじとみる。
りんは、えへへ、と泣きながら笑った。

「あやめちゃん・・・二人だけの内緒ね?」

りんが右手の小指を差し出すと、あやめはまたじわりと涙を浮かべて、小指を差し出した。

「・・・ゆーびきり、げーんまん」

 


ぽろぽろ、ぽろぽろ、二人は泣いた。

二人が少女でいられる、最後の時間だった。

 

 

 

・・・次の日、馬に揺られながら、

あやめは、その名に相応しい、美しい菖蒲色の着物を身に纏い、紅をさし、花嫁となった。

 

 

馬に揺られた花嫁が見えなくなるまで見送ると、りんは、青い空を仰いだ。

愛しい人のいる、広い広い、水無月の空を。


・・・少しだけ、大人に近づいた気がした。
 

 

 

 

 

 

 

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